─技術者は,指示を待っていてはいけないのですね。企業に属しつつ自分で何をする必要がありますか。

 キヤノンを例に取れば,会社から大きな目標(ゴール)を示します。あなたの組織の役割はこれですよ,ゴールはこれです,と言います。その中で,それを達成するにはどうすればいいかを自分で工夫してもらう。会社が明確な方針を示し,その中で努力をするのは個人です。

 私は研究開発でもコミットメントを求めるようにしました。日本の経営者はコミットしないといわれますが,実ビジネスでコミットするのは危険です。「リーマン・ショック」のような予測できない事態の影響を大きく受けますから。一方,研究開発はかなりの部分をコミットできる。

 僕には,直属の部下が7人います。この7人に,「この1年間で何をやる,3年間で何をやる」と,僕にコミットしてもらう。「今年はこれらの開発をやります。そして,組織をこういう方向に持っていきます」というふうにね。それを実現するためには,彼らは部下にも同じことを言わなくちゃいけないから,全体にそのコミットメントが行き渡る。こういうことをやっていけば,組織は強くなります。

インタビューを終えて

 生駒氏は,さまざまな経歴をお持ちです。日本テキサス・インスツルメンツ(TI)の社長を務めたことは有名ですが,以前にはIBM社のWatson Research Centerでの研究の経験もあります。考えを聞くうちに,キヤノンが生駒氏を三顧の礼で迎えた理由が分かりました。同氏のこれまでの経験や考え方は,いわゆる日本的な経営者と一線を画しているからです。キヤノンの経営面での強みとされるのが,キャッシュ・フロー経営です。生駒氏は日本TIの社長時代に,キャッシュ・フロー経営を実践していたといいます。また,IBM社での経験を通じて,同氏は「研究活動でムダなものを省くことの重要性を強く感じた」といいます。この考えを今,キヤノンに応用しているとのこと。同氏の舵取りに期待したいと思います。(大石)