マザー工場システムは、日本のものづくり能力と海外のローコスト・大規模生産能力をつなぎ合わせる、日本企業の起死回生の策であった。しかしこのシステムでは、海外向け製品の開発から海外での量産活動のトラブルシュートに至るまで、多くの業務が本国拠点に集中する。このため、従来型のマザー工場システムでは、拠点のグローバル展開が進むほどに本国負荷が過剰に高まり、同時に海外拠点に支援の手が届きにくくなる、という問題が生じることとなった。

 かくして現在では、広範なグローバル拠点展開に堪える、新しいマザー工場システムの形が求められるようになっている。今回はその「あるべきマザー工場システムの形」について、検討していくことにしよう。

「トータルシステム」としての競争力

 マザー工場システムでは、海外展開とともに本国負荷がどんどん高まってしまう――それならば、負荷の高まりに合わせて、マザー工場への人員補充・追加投資を実施していけばよいのではないか。表面化している問題だけを捉えるならば、このような素直な答えが出てくる。現に、トヨタ自動車をはじめ、国内でのものづくり能力確保に危機感を抱いた日系製造業者の多くは、近年になって国内の技術・技能系人材の補充・育成に力を入れるようになっている。筆者としても、この問題に対する基本的な答えは本国拠点の拡充だと思うし、国内雇用が増えて日本経済にとっても望ましいことだと言えるかもしれない。

 だが、問題は、そう単純ではない。

 ものづくりで問われるのは、コア技術開発から量産まで、あるいは本国から海外までの、一連の事業活動の流れ「トータルシステム」としての競争力である。名高いトヨタ生産方式(TPS)がそうであるように、2011年女子サッカーW杯を制したなでしこジャパンがそうであるように。全体としての調和にこそ、組織としての強みがある。

 マザー工場システムが優れているのも、本国と海外をつなぐトータルシステムとしての競争力の高さゆえであるし、今またそれが問題となっているのも、やはりトータルシステムとして持つ構造的欠陥が明らかになってきたからに他ならない。本国拠点の人員設備を拡充したところで、トータルシステムが従来通りであるならば、根本的な問題は全く解決されてはいない。追い付かれたら破綻を迎える、増え続ける本国負荷と本国人員拡充とのいたちごっこが続いていくのみである。

 TOC(制約条件の理論)で知られる生産管理の大家、Eliyahu Goldratt氏が指摘するように、部分改善の積み重ねでは全体最適には到達しない。全体最適を生み出すには、唯一、全体構想から行うより他にないのである。