青色LEDの開発者、中村 修二氏。同氏が日亜化学工業を提訴した直後に、日経エレクトロニクスがインタビューした記事を再掲する。日本の技術者に向けた、強いメッセージが感じられる内容である。(聞き手は当時、日経エレクトロニクス編集長だった浅見 直樹)

 ――中村さんが提訴したことで,今後同じように会社を訴える技術者が増えるのでは。

 中村氏 それはいいことですよ。日本も最終的には米国のように訴訟の国になると思う。今はなあなあでしょ。だから制度も変わらない。日本も変わらなくてはいけない時期に来ている。

 ――「会社は技術者に開発環境を与えている。こうした土壌があるからこそ,技術者は優れた発明ができる。だから技術者が会社を訴えるのはおかしい」という反論もありますが。

 中村氏 米国でベンチャー企業を起こして利益が出た場合,その利益は企業を起こした人と企業に投資した人に50%ずつ分配されるようになっています。日本の場合,会社に所属する技術者の発明によって利益が出ても,利益のほとんどは会社のものになる。会社は資金を出しているので,発明に寄与していることは認める。でも,会社の貢献度がほぼ100%というのはおかしい。

 基になるアイデアは発明者から出たものです。例えば私の場合,日亜化学はもともと化学メーカーであって半導体メーカーではなかった。青色LEDをゼロから立ち上げたのは私。会社は単に投資したにすぎない。

 ――企業の多くは「ウチの特許報酬制度は他社よりも優れている。現場の技術者からの不満もない」と静観していますが。

 中村氏 そうは言っても,実際には幾つかのメーカーは制度を変えようとしている。報奨金の上限をなくすとか,最高額を1000万円にするとか。ただ,例えばある技術者が書いた特許を基に作った製品の売上高が1000億円に達した。でも,その技術者に支払われる報奨金がたった1000万円だったら,どう思います? 妥当じゃないでしょ。

 日本の特許報酬制度は保守的。自ら大胆に変えることはできないだろう。だから裁判でバシッと判決が出れば,企業は動かざるを得なくなる。制度を変えるにはそれしかない。

 米国の大学の場合,特許によって儲けた金額の50%は大学,50%は発明者に渡される。特許を出願するときに会議をして,誰がどのくらいその発明に寄与したかきちんと決めている。みんなが納得できるようにね。日本の企業もそんなふうにしたほうがいい。