「いずれ、トップになる」――。

 ソフトバンク 代表取締役社長の孫正義氏は、ソフトバンクモバイルの発表会などの折に、たびたびこのように発言してきました。携帯電話事業者として国内3位の地位に甘んじることなく、いずれは1位を目指す。そのために、ありとあらゆる手段を講じていく。ここ数年の孫氏の携帯電話事業におけるスピード感のある展開からは、こうしたゴールを現実のものにしたいという強い熱意が感じられました。

200億米ドル超を投入

 とはいえ、国内1位になるためには、KDDIを抜き、そしてNTTドコモを抜かなければならない。そう簡単ではないな――。孫氏の意気込みを聞きながら、私はそう感じていました。「やるなら、KDDIを買収するしかないんじゃないか」、そのぐらいの距離感の話と思っていました。つい最近まで…。

 それが一気に前進しました。ソフトバンクによる、米携帯電話事業者3位のSprint Nextel社の買収です。同社の株の7割の取得を目指すとしており、投資総額は約201億米ドル(約1兆5700億円)。これによって、移動体通信事業の売上高としては世界第3位に躍り出るとしています。

 旧知の通信事業者の技術者に反応を聞くと、「そう来たか、という感じ」や、「Sprintって、あの値段で買えるんだ」という驚きの声、そして「ウチにもああいうスピード感が欲しいよね」というため息交じりの声も聞かれました。

 この話をある取材先の方としていると、「ところで、ドコモはどうするんですかね」という話に。ソフトバンクの大きな賭けをきっかけに、NTTドコモも海外戦略を加速することになるのか、それとも国内市場での収益性向上をまずは優先するのか――。NTTドコモの次の一手には様々な視点から関心が高まりそうです。

 NTTドコモの海外戦略といえば、2000年11月に発表した米AT&T Wireless社への出資が思い起こされます。出資金額は約98億米ドル(当時のレート、1米ドル=110円換算で約1兆792億円)と巨額でした。当時は、「ドコモが米事業者に出資、国内メーカーにチャンス広がる」と、NTTドコモの海外進出にあわせ、日本の通信機器メーカー、特に端末メーカーの海外展開に有利になるという期待が大きくなっていました。NTTドコモがAT&Tへの出資を通じてIMT-2000(W-CDMA)の導入を支援し、それが国内メーカーのW-CDMA対応機器の米国市場展開に有利になるというシナリオです。