最近、とても腹が立つことがありました。会社のエレベーターの中で突然、「太ったんじゃないの」と声を掛けられたのです。以前、同じ職場で働いていた人でした。私とは比べ物にならないくらいでっぷりと太った人で、正直、「あなたにだけは言われたくない」という感じです。その人は、自分だけ太っているのが寂しかったのかもしれません。

 別に、最近特に太ったということはありません。しかし、一時期に比べると体重が増えたのは事実です。健康への影響もありますし、これを機会にダイエットをしてみようと思い立ちました。

 ダイエットで一番重要なことは、自分の体重を正確に知ることです。継続的に体重を測るだけで、食事に注意するようになって減量できるという話もよく聞きます。しかし、体重を測っていちいち記録するのは面倒です。面倒なことはそのうちやらなくなります。なんとか自動的に体重を記録する方法はないかと考えました。

 最初に思いついたのは、任天堂のゲーム機「Wii」とその周辺機器である「バランスWiiボード」を購入して利用することです。同社によると、バランスWiiボードは世界で最も売れた体重計としてギネスブックに登録されているとのこと。ただ、バランスWiiボードを利用するにはWiiの電源を入れなくてはなりません。結局、体重を測るときに何かしらの手間が掛かってしまいます。かといって、Wiiの電源を入れっぱなしにしておくと電気代が気になります。フィットネス・ソフト「Wii Fit」の効果を確認するのにはいいですが、私のように「ただ体重を測りたいだけ」という用途にはオーバースペックだと感じました。

 他にいい方法はないものかとインターネットで探していたところ、よさそうな製品を見つけました。フランスWithings社の「WiFi体重計(WiFi Body Scale)」(製品のWebページ)です。体重を測るだけで、無線LAN経由でクラウド上にデータを記録してくれるものです。価格が1万7000円程度と体重計にしては高価で、買うかどうか迷っていたのですが、「そういう機能を持っていればそれくらいするんじゃない?」という妻の声に押されて購入しました。

 届いた製品の箱を開けて驚いたのは、取り扱い説明書にほぼ何も書いてないこと。電池の入れ方を説明し、あとは「このURLにアクセスしてください」としか書いてありません。パソコンでそのURLにアクセスすると、無線LANの設定やアカウントの作成などを行うよう指示されます。その通りに作業を進めると、設定は簡単に終わりました。

 あとは、体重を測りたいときに上に載るだけ。電源スイッチがないので、本当に載るだけです。それだけで、測定した体重と測定した日時がクラウド上に記録されます。記録された体重のグラフは、パソコンのWebブラウザーやiPhone/iPadのアプリで確認できます。乾電池駆動なので電気代の心配もありません。おまけに、乾電池の残量をWebサイトやiPhoneアプリから確認することもできます。

 もっとも、欠点がないわけではありません。この体重計は体重と同時に体脂肪率も測定するのですが、その測定精度が著しく悪いのです。前日に比べて値が5以上変わったりするので、まったくあてになりません。体脂肪率の測定機能は気休め程度と思っておくのがよさそうです。

ユーザーよりもキーワードが大切なのか

 日本のメーカーにも、スマートフォンで体重データを管理できる製品があります。ただ、スマートフォンとの通信にNFCを採用しているのが私には理解できません。体重計は床に置くものです。スマートフォンを本体にタッチするには、ユーザーがしゃがみこまなくてはなりません。腰が悪い人にはつらい動作になります。本来は、Bluetoothや無線LANでスマートフォンとやり取りすることを検討すべきでしょう。

 洗濯機にもNFC通信機能を搭載した製品があります。この製品に対しては「洗濯物を抱えているときにどうやってスマートフォンを持って行けばいいのだろう」という意見を聞いたことがあります。ユーザーの利便性よりも「NFCでスマートフォンと連携すること」が最優先されているように思えてなりません。

 どうしてこうした製品が生まれてしまうのでしょうか。日本の大手家電メーカーで技術者として働いた経験を持つクレイジーワークス 代表取締役 総裁の村上福之氏は、Webの連載記事で「エラい人のキーワードでモノつくる構造」が原因だと指摘しています(エンジニアtypeの記事)。「エラい人がよく分かってないのにキーワード優先で号令をかけて、その下の人たちはキーワードだけを頼りに、実装していくケースが多いように思います」(同記事)。それでいい製品ができるわけがありません。

 顧客の都合よりも属している企業の都合を優先する人が社内的に優遇されるのは、サラリーマンの常です。しかし、そうした人ばかりになってしまうと、その企業は社会での存在価値を失います。「顧客のことだけを考えて開発された製品が結局は成功する」という話は、2012年1月23日の特集「脱安売りの極意」に書きました。こうした話は、どんなに書いても書きすぎることはないと思っています。