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テラヘルツ波とグラフェンの不思議な関係

野澤 哲生=日経エレクトロニクス
2012/10/23 00:00
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 先日、米国サンフランシスコで開かれた有機EL技術のシンポジウムを取材した際の帰国時に、サンフランシスコ国際空港(SFO)で、アレを初体験しました。アレとは、衣服を透視して刃物や銃など危険物を持っていないかを調べるミリ波のボディ・スキャナです。装置に、ミリ波を使っていますよ、うんぬんという説明(もちろん英語で)がありました。

 以前のゲート型金属探知機と異なり、大型の電話ボックスの中に入るような感覚です。そしてそこで、両腕を「く」の字に曲げながら頭の上に挙げるポーズを要求されます。ほとんど裸同然の写真が撮れてしまうこの装置で、そんなポーズをしたら…。

 幸い、見たくもない自分の裸を強制的に見せられることにはなりません。何か危険物らしき物が見つかった場合、人をかたどった絵の上に、その物がある位置だけが表示される仕掛けになっているためです。これなら恥ずかしくないし、なにか金属物をうっかりポケットに入れたままにしていた時も、位置が特定されているため、全身を身体検査する必要性が減ります。これまで金属探知機に引っ掛かって身体検査される煩雑さがイヤで、わざわざ時計やベルトまで外していた手間が省けることを考えると、旅行者側にもそれなりのメリットがあるでしょう。

 ただ、全身の映像がどこかに残されているのではないかという疑問や、空港だけならまだしもゲート型金属探知機を利用している民間の企業などでこれがどんどん導入され始めた場合、プライバシーに対する職員のモラルをどこまで信頼できるのかという疑問は残ります。
 
 ちなみに、このボディ・スキャナで利用されるミリ波周波数は最大100GHz(0.1THz)ぐらいと聞きます。波長にすると3mmほど。さらに周波数を高める、あるいは波長を小さくするといよいよ「テラヘルツ波」と呼ばれる電磁波の領域です。このテラヘルツ波にはさまざまな用途が期待されていますが、有力な用途の一つはやはり「透視」。封筒の中身を透視して安全確認に用いたり、電線ケーブルの被覆を透視して、電線の断裂の有無をチェックしたりという用途が検討されています(関連記事)。コンクリートのひびの検知や劣化具合を知る上でも強力なツールになるため、電線や建物の点検作業手順が大きく変わっていく可能性があります。

 この用途でのミリ波に対するメリットは、一つは周波数が高い(波長が短い)ことで、解像度がより高い映像が得られることですが、他にもあります。それは、材料の材質が分かる場合があること。テラヘルツ波の波長がちょうど、材料の分子の特徴を知るための電磁波の波長と重なっているため、透視と同時に材料解析ができるのです。これを利用して、例えば製薬会社が薬錠の品質測定に使おうとしていたり、食品業界が食品のパッケージ内部の異物(虫や髪の毛など)検知の手段にならないかと熱い視線を注いでいます。

 透視などの例を最初に出したのは、ミリ波やテラヘルツ波を使うことで、これまでできなかったことができるようになることを示したかったからです。特にテラヘルツ波の場合、新しく実現しそうな用途が数多くあります。例えば、超高速通信です。現時点でも120GHzの電磁波を用いたデータ伝送は、放送用データの伝送などで実用化されつつあります。現時点のデータ伝送速度は20Gビット/秒ですが、将来的にはその50倍の1Tビット/秒も実現可能性があるようです。

 ここで、テラヘルツ波は単なるデータ伝送の高速化だけではなく、無線通信の低消費電力化の切り札になるとみられています。無線LANの技術で10Gビット/秒を実現しようという動きがありますが、仮に今の技術をそのまま使うと変調回路だけで約100Wの電力を消費してしまいます。一方、テラヘルツ波通信なら1W前後で済む可能性があります。携帯電話機やスマートフォンの電池の寿命は永遠の課題といってよいほどですが、100Wでは無線機能の起動すら難しそうです。

 さらには、医療分野でも期待されています。例えば、ガン細胞を正常な細胞と見分ける病理検査では研究報告がいくつも出ています。

グラフェンがテラヘルツ波を飛躍させる?

 さまざまな用途への応用が期待されているテラヘルツ波ですが、最近までは大きな課題がありました。それは、大出力のテラヘルツ波を生成するのが難しかったり、装置が巨大だったりする点です。当初は装置の大きさがビル1棟分だったとも聞きます。これが、テラヘルツ波の開発が遅れていた最大の理由でした。

 最近は装置の小型化が急速に進み、半導体でテラヘルツ波を生成することが可能になりつつあります。特異な性質を多数備えた炭素材料のグラフェンで、テラヘルツ波を生成する研究も進んでいます(関連記事1関連記事2)。公式には未発表の論文によると、テラヘルツ波の大部分の波長、しかも大きな出力での生成がグラフェンを用いることで可能になるという解析もされているようです。

 これまで未踏の電磁波だったテラヘルツ波と、材料自体は極めて身近ながらごく最近になってその特性が知られるようになったグラフェンが結びつくのは、とても不思議な気がします。

 一方で、テラヘルツ波には全く別の「課題」があります。それは、オカルト好きな人がなぜかテラヘルツ波に強い興味を示していること。Webページでテラヘルツ波を検索すると、テラヘルツ波の怪しげな「効果」がぞろぞろ。確かに光と電波の境界領域にあるテラヘルツ波には興味深い特性が数多くありますが、それでも電磁波の一種にすぎません。こうした誤解は早く一掃して、テラヘルツ波の実用化が早く進んでほしいと思います。

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