日本では電機産業が経営難に陥り、「もう電機産業は日本ではできない」、「自社で様々な業種を手掛ける垂直統合は悪で、水平分業にすべき」、といった論調が多いです。でもそれは、大きな誤解。これからは、ハード、ソフト、サービスなどの垂直統合が必要とされているのです。
確かに、労働集約型であったり、大きな電力を消費する工場を日本で運営するのは、コスト面で難しいでしょう。しかし、「ハードウエア事業=製造」ではないのです。前述のApple、IBM、Facebookといった企業も、LSIや携帯端末、サーバーの設計を手掛けていますが、製造は台湾などの企業にアウトソーシング。
製造を自社で行わず、設計だけでしたら、巨額な投資を必要としません。日本では、ともすると、電機産業や半導体事業が不調なことから、「もう、ハードウエアはやめよう」、という考えになりがちですが、ハードウエアの設計、製品企画はこれからもITサービスの差異化には重要なのです。
TIのCPU事業が苦境に陥っているのは、携帯電話のスマートフォン化に乗り遅れたのが原因です。同様にシステムLSI事業に苦しむルネサス エレクトロニクスに、トヨタ自動車、パナソニック、日産自動車、ホンダ、キヤノンなどのユーザー企業10社が出資するという報道がありました。
車や家電にとってはCPUやマイコンは頭脳にあたりますので重要です。ユーザー企業のルネサスへの出資も、Amazonと似たようなケースと言えるかもしれません。ただ、Amazonが積極的にCPU事業を自社の差異化のために買収しようとするのに比べ、ルネサスへの出資は、どうも出資側の腰が引けている印象があります。
そもそも、日立、三菱電機、NECの3社の半導体部門が合併してできたルネサスに、更に、10社も出資したら、「船頭多くして・・・」となり、再建に向けて、リーダーシップが発揮できるのか、心配です。
出資するトヨタやパナソニックなどのユーザー企業の側にも、どれだけ半導体の事業にコミットすべきか、迷いがあるのではないでしょうか。
サービス、ソフト、ハード融合の時代に変革が求められているのは、ハードウエア企業だけではありません。半導体といったハードウエアを使う、インターネットサービスから自動車産業まで、ユーザー企業の側にも、覚悟と戦略が試されているのです。