HPC(High Performance Computing)という言葉

 スパコンの世界で、よく出てくる用語の1つにHPC(High Performance Computing)という言葉があります。著者が最初に出会った時はHPTC(High Performance Technical Computing)という表現も併用されていました。ハイパフォーマンス・コンピューティング…。要約すれば、普段皆さんが必要としている計算(コンピューティング)とは次元の違う大規模な計算を、ごく短時間で行わなければならないということです。では、それはどんな計算なのでしょうか。

 例えば、気象の分野で台風の進路予測を、細かく正確に「シミュレーション」する。計算範囲が関東地方だけではなく、地球を丸ごと分析するとしたら…。しかも、気象予測は「1時間後の進路予測は1時間以内に計算を終わらせないと予測の意味がない」のですから、非常に大規模な計算を「高速に」行う必要があります。そこでHPCとなるわけです。

 つまり、ただ「速い」だけでなく「短時間で行う」ということ。まさにトップスピードのみならず、短時間での加速減速を可能にした「F1」という言葉がぴったりなのです。F1が大好きな方なら、なぜF1がサーキットを速く走れるか、その重要な要素がブレーキ性能や加速性能であることをよくご存じでしょう。そのことを考えれば、スパコンに対してなぜ私が「F1」を代名詞として使うのかも、ご理解いただけるのではないかと思います。

 とはいえ…、スパコンがそれほど特別な世界なのだとしたら、本当に一部の世界でしか使えないもので、一般人には使えないのか。自分が操縦できるスパコンなんて存在しないのか。この世界に入った当時は、そんな風に思いはじめていました。そして「そもそも速いスパコン」って何をもって速いと定義付けているのだろう……と考えるようになったのでした。