海外の拠点にどの情報を、どこまで見せるか。このような問題に頭を悩ませている企業は多い。正解が単純に得られない理由の1つは、製造業のグローバル化が過渡期にあり、拠点の役割が急速に変化していることであろう。

 今回から次回にかけて、グローバル化への過渡期にある製造業各社がどのような悩みを持っているか、開発現場を中心に生の声を紹介し、読者の皆様とも課題認識を共有したい。

製造業のグローバル化の動向と開発現場の実態

 日本の製造業の海外展開は、まず販売、製造の進出から始まったが、現在では開発を海外で行う企業が増加している。こうした企業が、海外における売上拡大の事業方針や主要顧客の海外進出に伴い、現地ニーズや規制への適合、海外向け製品の開発期間短縮、ソフトウェア開発を中心とした開発技術者の人件費削減といったQCD(Quality/Cost/Delivery)面での向上を目指しているのはもちろんだが、加えて現地特有の知識・ノウハウの取得や各国の優れた人材の活用といった、自社のコアコンピタンスの強化を意図している場合も多い。

 ただし、このような意図に基づいてプランニングされたロードマップに則って、整然とアクションを実行している企業は、実はあまり多くない。デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)のPLMチームは、この半年間に約30社の開発現場にヒアリングを行ったが、そこから見えてきたのは、開発現場の改革スピードが、事業上の必要や顧客からの要請に追いついていない実態である。海外拠点における開発機能が拡大傾向にある中、多くの企業で、海外拠点への技術の公開範囲やそこの開発技術者の育成レベル、技術データの標準化といった、日本と海外の開発のすみ分けに関する問題が顕在化していた。そして、これらの問題の解決にあたり、各企業では、海外拠点からの情報収集やグローバル連携のあるべき姿のプランニング、海外拠点への統制の対処に苦慮している。

 また、DTCのPLMチームは、本連載の共著者であるラティス・テクノロジー社長の鳥谷浩志氏を初め、開発部門のキーパーソンと多数の接点を持つ有識者とディスカッションをする機会も多いが、この認識に関してはいずれも大きな差異はないのである。