課題[1]開発拠点の役割定義

「技術情報管理、特にコア技術の海外開発拠点への情報公開範囲の設定が難しい」

 これは、ある自動車部品メーカーの経営企画部の課長によるコメントである。この企業は海外開発拠点の展開に関して長い歴史を持っているが、なぜ現在になってこのような悩みが現われてきたのか。それは、開発拠点における連携方針の変化にある。この企業の開発拠点は海外メーカーの買収を起源としており、従来は各拠点がそれぞれの保有技術を用いて個別に開発を進めてきた。しかし近年、拠点間のグローバル連携によりさらなる高付加価値化を狙う方針に転換したため、国内のコア技術を海外開発拠点に対してどこまで公開するか、という悩みが顕在化したのである。

「海外開発拠点へのガバナンスやサポートを、誰がどこまで行うべきかの見極めが困難だ」

 2つ目のこれは、ある化学品メーカーの経営企画部部長のコメントである。この化学品メーカーも海外開発拠点の展開の歴史は長い。先の自動車部品メーカーと同じく海外メーカーの買収によって誕生した開発拠点であり、これまでは個別に運営されてきた。しかし、グローバル連携強化の方針が打ち出されたことで、上記のような悩みが現われてきた。

 こうした悩みの根源にある課題は、開発拠点の役割定義である。すなわち、各開発拠点が、研究、製品開発、カスタマイズ設計といったエンジニアリング・チェーン上の工程をそれぞれどこまで担うか、技術領域別、製品領域別に定義する必要があるのだ。この定義により、技術の公開範囲はもちろんのこと、国内開発拠点と海外開発拠点の連携の必要性もあらためて規定され、他拠点への情報提供やガバナンス、サポートの必要水準も見えてくる。

 このような課題への対応が求められるのは、最近になって海外の開発拠点を設置した企業だけではない。先に述べた2社のように、海外開発拠点の歴史が長い企業であっても、拠点間の連携方針が変化すれば対応が必要となる。近年、各社間の競争の激化により、拠点別に個別の運営を行うマルチ・ドメスティック戦略では生き残りが難しくなり、その結果、拠点間の連携により企業のコアコンピタンスを強化する、グローバル戦略に方針転換する企業が増加している。だが、このような転換の際には、各拠点の役割の再定義が必須なのである。