島津製作所 田中最先端研究所などは2011年11月、質量分析システムを利用して血液1滴からの病気の超早期発見につなげる画期的基礎技術を開発したと発表した。2002年にノーベル化学賞を受賞した、同研究所 所長の田中耕一氏に、超早期発見などの次世代医療に向けたエレクトロニクス技術者への期待を聞いた。(聞き手は小谷 卓也)

――ノーベル賞の受賞にもつながった質量分析の技術が今、がんなどの超早期発見に貢献しようとしています。

たなか こういち
たなか こういち
東北大学 工学部 電気工学科を卒業。1983年4月に島津製作所に入社、技術研究本部 中央研究所に配属。英KRATOSや英Shimadzu Research Laboratory(Europe)などへの出向を経て、2002年5月に分析計測事業部 ライフサイエンス研究所 主任。同年11月、フェローに就任。同年12月、ノーベル化学賞を受賞。2003年1月に田中耕一記念質量分析研究所 所長に就任。2010年3月から現職。
(写真:吉田 竜司)

 私は大学卒業後、医療の分野に携わりたくて、医療機器を手掛けていた島津製作所に入社しました。しかし、その希望は見事に破れ、当時は医療とまったく関係がなかった質量分析の分野に関わることになった経緯があります。

 めぐりめぐって、今では質量分析の技術が今後の医療に大いに役立とうとしているわけです。私自身としては、大学卒業時の希望が実現したと言えるのかもしれません。

 質量分析が医療に貢献できるようになった背景の一つには、エレクトロニクス技術の進歩があります。質量分析は数十年前、元素や同位体といった無機物を計測する技術でした。その後、たんぱく質などの有機物を破壊せずにイオン化できるようになったことで、有機物の計測も可能になってきました。このイオン化した有機物を、いかに精度良く高感度に観察するのかという部分に、エレクトロニクス技術は大いに寄与しているのです。