最終日に大事件

 米国出張の最終日、ソニーを揺るがすビッグニュースが出た。私が帰国の途に着こうとした2005年3月6日(米国時間は3月5日)に、部下から日本経済新聞社の記事がメールで送られてきたのだ。そのメールには、出井会長(当時・取締役 代表執行役会長兼グループCEOの出井伸之氏)や安藤社長(当時・取締役 代表執行役社長の安藤国威氏)、久多良木副社長(当時・執行役副社長兼COOの久多良木健氏)など経営陣が一掃され、代表執行役会長兼グループCEOにHaward Stringer氏、代表執行役社長兼エレクトロニクスCEOに中鉢良治氏、代表執行役副社長兼グループCFOに井原勝美氏という新経営体制になると書かれていた。

2005年3月7日に新体制を発表
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 直接の指示はなかったもののエアボード時代から支援してくれた出井さんの退任、そして一からプレイステーション事業を立ち上げて新規立ち上げの苦労を知り、ホームプロダクツ担当の副社長としてロケフリの開発部隊を本社から事業部門に引っ張ってくれた久夛良木さんの退任は、ロケフリの開発部隊に非常に大きな影を落とすことになったのである。

 不安な気持ちに駆られながら帰国したものの、経営体制の刷新とは無関係に予定通り2005年3月10日には7型のLF-X5を発売した。もちろん、発売したもののマーケティング活動を落ち着いて実施できる状況にはなく、何か会社全体が慌しい状況だったのを覚えている。

 出井さんからの指示もあり、新経営陣にそれぞれロケフリ事業について説明し、パソコン向けの“新ロケフリ”の開発に専念することにした。ただし、新経営陣に説明したものの、目前に控えた2005年6月の株主総会や同年9月の経営方針発表会に重きが置かれ、商品そのものには興味がなかったようだった。

 参考までに、新経営陣に対してロケフリ事業を説明した際の雰囲気を紹介すると、ほとんど指示らしきものはなく、井原さんがひと言、「(7型のLF-X5は)7万円であれば売れるだろうな」とコメントした程度だった。世界初となる外出先から自宅のテレビを見られるようにした商品だったにもかかわらず、まるで人ごとのようだった

新ロケフリが大ヒット