京都大学 教授でiPS細胞研究所 所長の山中伸弥氏がノーベル生理学・医学賞を受賞したことを受け、「再生医療」への注目が高まっています。再生医療は、病気やけがで失った臓器または組織を再生させる医療のこと。さまざまな組織の細胞への分化が可能なiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、こうした再生医療への応用が期待されているというわけです。

 エレクトロニクス業界には少し縁遠い話にも聞こえますが、実はここ数カ月、再生医療に関連する取り組みを発表したエレクトロニクス関連企業は決して少なくありません。例えば、ソニー、日立製作所、大日本印刷、東京エレクトロンといった企業が、これまでの事業で培った技術を生かして、再生医療の分野に関わろうとしています。


 ソニーは、2012年秋に細胞の種類や大きさなどを識別する装置「セルソーター SH800」を発売することを、同年6月に発表(関連記事)。iPS細胞や再生医療などの研究に向けた装置です。光学的な手段で計測することが特徴で、同社のBlu-ray Disc技術を応用して開発しました。

 日立製作所は2012年8月、東京女子医科大学と共同で、再生医療に使う細胞シートを自動で培養できる装置を試作したと発表(関連記事)。これまで手作業で実施していた細胞シートの培養を自動化することで、低コスト化や生産性の向上などを実現する装置です。日立製作所は発表会で、同装置の開発には「幅広いエレクトロニクス技術を生かした」と説明しました。

 大日本印刷は2012年10月、東京医科歯科大学と共同で、眼球の変形を抑制する治療法の開発に着手したと発表(関連記事)。この治療法には、印刷技術を生かした血管再生技術が使われています。具体的には、光リソグラフィー技術を用いてヒトの血液からパターン化された血管を体外で作成し、転写技術を用いて体内に移植するといったものです。

 東京エレクトロンは2012年9月、神戸医療産業都市への進出を発表(関連記事)。半導体やFPDの製造装置の研究開発で培った技術を生かし、iPS細胞を用いた再生医療に向けた細胞培養や検査手法の研究を進める計画です。


 このように、最近の発表だけを振り返っても、再生医療の進展に向けて、さまざまなエレクトロニクス関連技術が貢献できる余地があることがうかがえます。医療行為そのものを含めた臨床の領域には簡単に介在できないとしても、その周辺機器やシステム、装置といったインフラの領域には多くの技術の後押しが求められているのです。

 もちろん、これは再生医療に限った話ではなく、医療全般に言えることでしょう。2002年12月にノーベル化学賞を受賞した、島津製作所 フェロー 田中最先端研究所 所長の田中耕一氏は、2012年1月に実施した本誌のインタビューに対して、次のように語っています。「十分に成長・成熟したエレクトロニクス技術を生かせば、これまでの医療をより高精度に、より高感度に、より高速に、かつ信頼性を高められる可能性があります」――。こうした動きを、本誌とデジタルヘルスOnlineでは、引き続きウオッチしていきたいと思います。

 なお、2012年11月21日に開催するイベント「デジタルヘルス・サミット2013」では、田中耕一氏に特別講演をしていただく予定です。