技術と経営を融合

 技術と経営の両方が分かる中原林人氏を社長として外部からヘッドハントしたことも業績を伸ばした要因となった。ナノフォトンの取締役会長の河田氏は阪大教授との兼任。日常の経営の仕事は中原氏に任せている。中原氏はリーマンショック直後の2008年11月に社長に就任した。

 この中原氏のキャリアがユニークで人材の多様性を感じさせる。中国から留学し、東京大学大学院工学系研究科で博士号を取得後、航空宇宙技術研究所(現宇宙航空研究開発機構)で研究員として働いた。その後、民間企業に転職し、商品開発・新規事業開拓などを担当、MBAも取得している。専門は航空機エンジンの燃焼である。現在は日本国籍を取得した。

 中原氏は社長を引き受けた理由をこう語る。

「社員が若くて明るく、頭脳集団であるので、やり方を変えれば可能性があると思いました。私が就任した頃は、前社長の方針によるナノフォトンのユーザーからノーベル賞を出そうという狙いから、1品づくり。リピーターもおらず、研究者中心で顧客のターゲット層が狭かった。このため、利益率が低く、累損もありました。素早いスピードで細かい点が見られるという当社の商品特性もうまく生かし切れていなかった。そうした点を変え、成長が見込める製薬、2次電池、カーボン・ナノチューブといった産業分野にも営業を強化していくことにしました」

 当初の方針である研究者向けの販売も続けながら産業向けに用途を拡大させる戦略が成功し、売り上げが飛躍的に伸びた。2008年は売上高が約1億円だったのが、2011年は4億円にまで拡大し過去最高益を計上。2012年以降もさらに高い成長を目指している。規模はまだ小さいが、大学発ベンチャーで事業を着実に伸ばし、収益を出している企業は多くない。河田教授の志と中原社長の経営力が融合した「賜物」と言えるだろう。

 技術と経営の融合は古くて新しいテーマであるが、日本企業が「グローバル市場で負けないものづくり」を目指していくには欠かせない視点であると改めて感じた。

■変更履歴
記事掲載当初、専用ソフトウエア「ローラス」を開発した河野氏の名前を「省」としていましたが,正しくは「省悟」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。