「サイエンスの進化を支えたい」

 こうした現状に風穴を開けようと、一人の研究者が立ち上がった。応用物理が専門の河田聡・大阪大学工学部教授だ。自身の研究をベースに私財も投じて最新鋭の顕微鏡を造るハイテクベンチャー「ナノフォトン」を2003年に設立したのだ。多くの大学発ベンチャーが伸び悩む中で、売り上げと雇用を着実に伸ばしている。

大阪大学工学部教授でナノフォトン取締役会長の河田聡氏(右)と同社社長の中原林人氏(左)
大阪大学工学部教授でナノフォトン取締役会長の河田聡氏(右)と同社社長の中原林人氏(左)

 河田教授は起業の理念をこう語った。

「21世紀の日本のサイエンスの基盤を支えたいとの熱い思いから創業しました。経済、社会、国家など、あらゆるものが閉塞状態にあり、学問も例外ではありません。化学、物理、生物といった学問のくくりは、19世紀モデルです。21世紀に入った現状でも、学問の間には大きな「壁」があります。例えば、学会が違うと、使う用語までも違ってくるのが現状です。今や、このような壁に何の意味もありません。その壁を崩さないと、21世紀の新たなサイエンスの発展はないと確信しています。その役割を背負っているのが、ナノテクノロジーという学問です」

「ナノフォトンは、そのナノテクという新たな学問と、産業や社会をつなぐ役割を担っています。ナノテクを使って、新しい産業を創出していく役割だとも言えます。ナノフォトンは、最新のナノテク技術を駆使した顕微鏡を産業界や社会に提供することで、バイオテクノロジーなど最新のサイエンスの進化を支えていきたいと思っています」

 要は、ナノフォトンは既成概念に囚われないものづくりを目指すということであり、規模は小さいながらもその発想やマネジメントは、「グローバル市場で負けないものづくり」を考える上で参考になる。