山中伸弥京都大学教授が今年のノーベル生理学・医学賞を受賞、日本の基礎研究のレベルの高さを改めて示した。こうした研究の進歩の陰には必ず研究装置・機材(インフラ)の発展がある。日本の製造業が進化発展していくには、こうした分野をもっと強化することも重要だろう。加えてサイエンスの進歩には、学問の融合も欠かせない。

 今回の本題に入る前に、ノーベル賞シーズンということもあって、これらの点についてもう少し触れておきたい。

表裏一体の研究インフラ技術

 フランスのパスツールと並んで細菌学の父と称されるドイツのロベルト・コッホは1882年、不治の病と言われた結核の原因となっていた結核菌を発見、1905年にノーベル賞を受賞した。コッホが結核菌を発見する40年ほど前、ドイツのイエナでカール・ツァイスが光学機械の工場を造り、顕微鏡の製作が始まった。理論的な裏づけがないまま試行錯誤が続いていたが、イエナ大学の若き講師だった物理学者で数学者のエルンスト・アッベに協力を持ちかけたことを契機に「アッベの結像理論」が生まれ、現在の光学顕微鏡の基礎が出来上がった。物理学者の理論に支えられた顕微鏡の発達により医学は急速に進歩した。異分野の融合がもたらした「果実」と言えるだろう。

 日本の研究者は、ハイテクになればなるほど、装置・機材は米国製を中心とした外国製を使う傾向にあるという。日本の研究者が外国製の研究装置・機材を使用する理由は、大きく2つあるようだ。1つは、日本の研究者は、海外の研究者が使用して、良い研究データが得られた研究実験の装置・機材を購入する傾向が強いことだ。もう1つの理由は、研究用の装置・機材を開発・生産している日本の大手メーカーは、大量に売れるものを好む傾向にあるということだ。規格品を大量生産する方が利益は出やすいという判断からだろう。このため、最先端の研究者のオーダーに細かく対応しない風土もあるようだ。

 1980年代から1990年代半ばにかけて日本と海外との間には貿易摩擦問題があった。日本が得意な自動車や家電製品を海外に大量に輸出し、貿易黒字が拡大したが、その一方で、米国などでは貿易赤字が拡大して外交問題にまで発展した。貿易摩擦解消のために、ハイテク機材は海外から調達するようにと、一時期に政府から指示が出ていたことも影響しているだろう。

 ハイテク研究機材の企業が育たない結果、多くの研究資金が外国に逃げているという見方も出ている。大きな問題ではないか。なぜなら、先にも述べたように、サイエンスの発展はインフラの発達と表裏一体となっているからである。さらに日本の研究水準を高め、「真のハイテク国家」となるためには、研究インフラ技術の進歩は欠くことはできない。