「ジャリッコ」というユニークな名前の排水処理方式の導入が新興国のある村で検討されている。ジャリッコは、アクアテック社(東京都国立市)代表取締役社長の衛藤俊司氏が20年以上前に開発した排水処理方法で、汚泥が出ないという特徴がある。

 このため世界で最も普及している「活性汚泥法」に比べて、汚泥回収のランニングコストを減らせるメリットがある。メンテナンスもほとんど必要ないため、人口が集中していない、新興国の農村部に適している。既に日本の自治体が20年以上河川の浄化に利用している実績があり、それを踏まえて新興国へ展開する可能性が出てきた。

多様なバクテリアで有機物を分解

図1●ジャリッコ(写真:日経BPクリーンテック研究所)
図1●ジャリッコ(写真:日経BPクリーンテック研究所)
 ジャリッコとは、石を丸く固めたものである(図1)。これを水路に敷き詰めて、ところどころ曝気(ばっき。水を空気にさらすことによって、バクテリアが有機物を分解するのに必要な酸素を供給すること)している。

 この曝気によって、嫌気(けんき。空気を送り込まないこと)と好気(こうき。空気を送り込むこと)が交互に来るようにしているが、嫌気と好気がはっきりと分かれているわけではなく、嫌気から好気、好気から嫌気へと緩やかに変化していることがポイントである。これにより多様な状況を作り出し、バクテリアの種類が増える環境を整えている。バクテリアの種類が多いことで、多様な有機物を分解することが可能になる。

 また、ジャリッコの中と外で水の流れる速度が異なる点もポイントである。これにより、固形有機物をジャリッコの中に取り込み、嫌気バクテリアの働きで溶解性有機物(BOD)に変えるのである。BODにしてしまえば、後は多様なバクテリアが二酸化炭素と水に分解してくれる。

 ジャリッコの場合、河川の浄化であれば約5メートル、生活排水の浄化なら約10メートルの距離を通過させる必要がある。原水のBOD濃度によって、通過させる距離は長くなり滞留時間も長くなる。それだけ装置コストがかかることになる。しかし、それでも活性汚泥法に比べれば、システム全体のコストは抑えられる。初期投資が少ないのに加え、汚泥回収が必要ないため設置後の運用コストも抑制できるのである。

 また生活排水を処理する場合、ジャリッコならば下水道の配管費用も抑えることが可能になる。汚泥を回収しなければならない排水処理システムの場合、汚泥回収に手間を掛けたくないので、排水処理システムを1カ所に集中させる方法を取る。しかし、1カ所に下水を集めるための配管にコストがかかってしまう。ジャリッコを使用したシステムであれば、汚泥を回収する必要がないため排水処理システムを点在させることが可能になり、下水を集めるための配管が少なくて済む。