震災で状況が一変

 そうこうしているうちに、すっかり季節は秋。2010年10月下旬になり、1次試作品が仕上がった。同時進行で量産品の金型作製に取り掛かる。12月ごろには3次試作品が数百台単位で出来上がり、最終チェックに入る。

 2011年1月、米国ラスベガスで開催されている展示会「2011 International CES」で初披露する瞬間がいよいよ訪れる。全く新しいコンセプトのカメラのため、来場者の反応が心配だった。

 日本に残った設計チームは、ドキドキしながら米国からの連絡を待つ。

「結構ウケてるよ!」

 思っていた以上に、好感触である。

 その後、国内でも記者発表会を開催し、2月下旬には本格量産ラインが動き出す。あとは4月の発売日を待つばかりだった。

 ところが、3月11日、東日本大震災が発生する。すぐさま状況を確認すると、本社や事業所の被害は限定的だったが、部品メーカーの被災状況が芳しくなかった。

「ちゃんと発売できるのかな…」

 開発チームに不安が募る中、4月7日に米国ニューヨークで発売記念イベントを敢行する。結果、Times Square前には多くの人が集まり、イベントは大盛況のうちに終えることができた。

2011年4月7日に、ニューヨークのTimes Squareで開催した発売記念イベントは大盛況。イメージ・キャラクターには女性ラッパーのNicki Minajを起用した。

 週が変わって4月11日、カシオ計算機はニュース・リリースを出す。「日本での発売を延期します」─。

 実は、この残念なニュースの裏で指示が飛んでいた。

「今あるやつは全部、アメリカにかき集めろ!」

 市場の反応が良く、営業チームが最も熱心だった米国では、予定通り発売することにしたのだ。

 一方、6月上旬現在、変形デジカメの国内での発売は「未定」のまま。部品の安定調達に向けて、担当者は今も日夜走り回る。全く新しいデジタル・カメラの開発は、まだ続いているのである。(敬称略)

─ 終わり ─