無理です

 方向性が定まったところで、2mm厚のステンレス材を扱える加工メーカーの選定に取り掛かった。だが、すぐにつまずく。2mm厚のステンレス材をデジタル・カメラで使うことが、まずないからだ。普段使用するのは0.3mm、厚くても0.5mm程度。2mmは異例中の異例といえる。

 加工メーカーに依頼しても、加工の難しさからいい返事をもらえない。

「無理ですね…」

 あそこなら、と期待を寄せていたメーカーからも残念な回答が返ってくる。結局、5~6社を回って、何とかパートナーを見つけることができた。

 ステンレス材を覆う樹脂枠も、形状が極めて特殊だ。全面にわたって内側がえぐられている形状(いわゆる「アンダーカット」)になっているので、射出成形後に金型から単純に「抜く」ことができない。

「困ったな…」

 通常の方法を使うと、継ぎ目ができたりねじが見えたりしてしまう。デザイナーのイメージは「シームレスなデザイン」。外観の美しさを犠牲にする妥協は、許されそうにない。

「自動で無理そうなら、1個ずつ、手で金型から抜いてくれませんか?」

 半分冗談、半分本気の相談を金型メーカーにする。これほどまでに、黒川たちは追い込まれていた。最終的には、これまで付き合いのある金型メーカーと協力し、カシオ計算機の設計チームが製造プロセスまで一緒になって知恵を絞り、自動で金型から樹脂枠を取り出す方法を編み出した。