角があったら立たない

「置いた状態でも撮れるようにしないとダメだ」

 小野田は強く主張した。商品企画側が意識したのは、可動式のフレームを採用したデザインを最大限に生かすこと。フレームを回してビデオ・カメラ・スタイル、さらに回して自分撮りしたり引っ掛けたりするなど、カメラを変形させることで六つの撮影スタイルをつくれることをデザイン・チームに提案した。中でも自分撮りに関しては、ユーザー調査の結果からも商品企画の軸にすることを決めていた。

「角があったら立たない」

カシオ計算機 羽村技術センター QV事業部 商品企画部 第一企画室の小野田孝氏

 デザイン・モックを手にした小野田は、長山に向かってきっぱりと言い切る。カメラを立てて置くときに接地面となる、ディスプレイの短辺の形状が気に入らなかった。デザイン・モックではディスプレイは六角形状で、外周フレームの六角形のデザインに合わせて接地面にも角を付けていた。これを見て、小野田が食って掛かったわけだ。

 長山たちデザイン・チームは、角ばった液晶ディスプレイでも立つような方法はないかとアイデアを出し合って考えた。だが、小野田の壁は越えられそうもない。

「おっしゃる通りです」

 小野田の指摘は的確だった。長山が折れ、接地面だけは角を取って直線に変え、カメラを立てやすいようにした。