きっかけは1枚の“企画書”

 2008年の年の瀬が迫る頃、長山は1枚の“企画書”を描いた(p.88の写真)。自身の頭の中を整理するためだ。

「ちょっと集まってくれない?」

 長山は近くにいた同僚のデザイナーたちに声を掛けた。

「面白そうですね」

 数人が食いついた。そこで、早速チームを組み、より具体的な製品デザインを描くことになった。デザイン完成のタイム・リミットは2009年3月。新しいコンセプトの製品を提案するには、うってつけのイベントが用意されていたのである。

 そのイベントは社内で開催されるデザイン・コンペで、カシオ計算機のデザイン部門が年に2回、「こんなデザインや機能の製品があったらいいな」というようなアイデアなどを発表する場となっていた。反響が大きければ、営業や商品企画の担当者に見せて製品化を検討することもできる。

開発初期はレンズが自由に回転することを考えた(写真:加藤 康)
開発初期はレンズが自由に回転することを考えた
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 “チーム長山”は、静止画と動画の垣根を崩すようなカメラのデザインをテーマに、イラストをたくさん描いた。ところが、そう簡単に斬新なアイデアは出てこない。レンズが自由に回転するものや、液晶ディスプレイが動くものなど、これまでの製品とあまり変わらないものばかり。もちろん、すべてボツだ。奇抜なアイデアもあったが、そういったものはデザインに機能性が伴っていなかった。

 思い通りのイラストを描けない原因は「カメラを塊として捉えてしまっていたこと」(長山)だった。前面にレンズ、背面に液晶ディスプレイがあり、全体が四角い箱に収まっている─というカメラの固定概念が、デザイン発想の邪魔をしていた。