静止画と動画の垣根を崩す
「デジタル・カメラはこの形で正解なのか?」
長山洋介(現・カシオ計算機 デザインセンター プロダクトデザイン部 第一デザイン室 室長)は悩んでいた。悩みの種は、どのメーカーのコンパクト・カメラも同じような形状をしていることだった。消費者などから「どこも似たり寄ったりだよね」と、揶揄され始めた頃だ。
長山が疑問に感じていたのは、カメラの形状だけではなかった。「そもそも何のためのデジタル化なんだろう?」。特に、コンパクト・カメラで動画を撮影するユーザーが少ないことが気になっていた。
静止画は銀塩カメラ、動画は8mmビデオ・カメラと分かれていた両者は、カメラがデジタル化されたことで技術的には融合された。実際、2008年には多くのコンパクト・カメラに「動画撮影ボタン」が搭載され、ボタンを押すだけで動画を撮ることができるようになった。ところが、このボタンが押されることはあまりなかった。
静止画と動画の間にある垣根を崩したい─。そう考えていたのは、長山だけではない。時を前後して、他社からも動画撮影を訴求する機種が発売された。ところが、一部のユーザーからは評価されたものの、主流にはなれていなかった。
原因はどこにあるのか。長山は思いを巡らせた末、機能や性能ではなく、「デザインそのもの、形そのものが悪いのではないか」という仮説を立てるに至った。「形状が変わってそれが機能的に役割を担うものであれば、きっと受け入れられるはず」。長山はそう考え、仮説を検証する活動を始めた。