今回紹介する書籍
題名:温州资本干的就是和你不一样
著者:周徳文
出版社:浙江人民出版社
出版時期:2012年3月

 今週も先週に引き続き『温州资本干的就是和你不一样(温州資本がすることはあなたと違う)』をご紹介する。

 「東洋のユダヤ人」とも呼ばれその商売の手腕が高く評価されている温州人。しかし、その温州人のイメージも時代によって変化する。

 もともと貧しい土地だった温州では「余所と同じことをしていては食べていけない」ということで、様々な産業が発展した。「温州人は5つの刀で財をなす」という言葉がある。5つの刀とは「カミソリ(理容業)、裁ちばさみ(縫製業)、包丁(飲食業)、皮用のはさみ(皮革加工業)、ねじ回し(手工業)」のことで、これらの先行投資や先端技術が比較的不要な分野で資金を貯め、それを元手に大きな商売に打って出る、というのだ。

 では、その「大きな商売」というのは何か。最近では何といっても「投機」である。中国語で「炒」という文字には本来の炒めるという意味のほかに「あおる」などの意味があるが、「房炒」「股炒」となると投機目的で不動産や株をやることを指す。本書でも取り上げられているが「温州房炒団」は「上海の不動産価格高騰の元凶」とまで言われるほどの勢いであった。

 ではそういった背景を踏まえた上で本書の論説をご紹介したい。

 本書の第1章は「温州資本は全世界で挫折を味わった」。温州人が投資で「痛い目にあった」事例を解説している。第1の例は山西省で炭鉱に出資して失敗した例。第2はドバイの不動産バブルに巻き込まれた例。そして第3も不動産バブルで失敗した例だが、こちらは「中国のハワイ」と言われた海南島での開発の失敗を扱っている。

 例えば海南島の地価は2009年の一年間で58.4%も上がっているという。これは海南島の不動産市場に島外から多くの不動産業者がやってきたためである。海南島の土地の購入者のうち島外の人間の半数は浙江省の人間であり、そのうち四分の一以上が温州人であったという。1988年に海南省全体が経済特区となって以降、不動産価格は急上昇した。人口が660万人に満たない島なのに数万の不動産会社ができ、たった3年で不動産価格は4倍になったという。しかし、今ではその不動産バブルもはじけ、開発の中心だった三亜のある地域では空室率が80%にも上るという。

 このように投資で大変な目にあった温州人だが今でもあいさつ代わりに「いい投資話はないかい?」と言う。彼らは投資という行為が好きなのである。

 本書の第2章で紹介されている林阿信という男は不動産業からベンチャー・キャピタルに転身した第一人者だ。彼は18歳の時に商売の道に入った。機械製作で身を立て、ちょっとした成功をおさめた。その後会社を上海に移し、「阿信」ブランドのセロファン包装機を作り業界のトップに躍り出た。2000年頃からの上海の発展を見て不動産開発に乗り出し、2002年に上海洋山投資発展有限公司を設立。時はおりしも全国的に「温州炒房団(温州人のネットワークは強固で、不動産投資にも集団で参加するため「団」といわれる)」に関する議論がかまびすしくなっていた。彼もまさにその一員だったのだ。その後不動産の好況に陰りが見えたころ、彼は企業への投資を始める。

 林阿信は2006年3月起業への投資に関する「創業投資企業管理辧法」が施行されると同時に温州の民間資金による初めてのベンチャー・キャピタルを設立した。

 その後多くの温州商人(略して「温商」と言われる)がこの分野に進出し、2008年の調査では温州地区内で1000億~1500億元の資金がベンチャー・キャピタルの分野に流入している。林阿信はこの分野を「尽きることない商圏」と位置付けており、この分野でも温州人は先頭を走っているのだという。

 このように、温州人は一つの分野がうまくいかなくなってもすぐにまた次の分野を見つける。この不屈の精神こそが温州人が「ビジネスの天才」と言われる所以である。