アジア アジア進出/ビジネス展開を支援
 

「高利貸し危機」を乗り越える温州人(3)

永井麻生子=おあしすランゲージラボラトリー代表
2012/10/29 00:00
印刷用ページ
 
今回紹介する書籍
題名:温州资本干的就是和你不一样
著者:周徳文
出版社:浙江人民出版社
出版時期:2012年3月

 今週は『温州资本干的就是和你不一样(温州資本がすることはあなたと違う)』の最終回。

 2000年代後半までは温州人といえば「小商品」だった。たとえば、温州生産の商品で有名なものはストロー、爪楊枝、ボタンだ。薄利多売こそが温州産業のキモだったのだ。そして「炒房(不動産投機)」「炒股(株式投機)」が温州人の代名詞となり、その後に「高利貸し危機」が来た。「高利貸し危機」が深刻化したのは先々週に述べたように温州独特の金融習慣があったからだ。銀行ではなく民間で融通ことにより貸借関係が複雑化し、そのことが危機を深刻化させたことは想像に難くない。

 では、中国が経済大国となった現在、ある意味古いやり方を続けてきた温州経済はどうなるのだろうか。まず、温州の経済人は小商品や「5つの刀(前回参照)」で小金を貯め、それを元手に投資活動をしてきた。彼らの資金は今後どこへ向かうのか。

 本書で提示している第1の道は、実業に帰る、という方向性である。かつて「温州靴」は粗悪品の代名詞だった。また、その後の「小商品」やOEMでも温州は「ブランド」とは無縁だった。ところが今、温州企業が海外ブランドを買い取り、製造業に回帰しているという。回帰していると言っても昔のやり方に戻るわけではない。本書では彼らのやり方の変化を以下のようにまとめている。

 販売においては営業マンが足で売り場を回って稼ぐやり方から、全国あるいは全世界でチェーン店や「温州城」(温州製品や温州業者の店ばかりのショッピングモール)での販売へ進化している。さらに既にインターネットを使って販売している業者も少なくない。生産においては職人の腕にたより粗末な施設の作業場で作るのではなく、近代化された生産ラインで商品を生産している。「モノマネ」からエンジニアを育成し技術や生産設備を向上させ、自ら製品を開発するようになった。

 また、彼ら実業家が参入しようとする分野も以前とは異なる。本書では呉春成という経済学者の意見を引いて温州資本が参入すべき分野を以下のようにあげている。

  • ① 投資などに資金を回す以前に従事していた「本業」
  • ② 芸術品
  • ③ エネルギー及び代替エネルギー
  • ④ 土地、工業用不動産、インテリジェントビル
  • ⑤ 人材及び労働力の育成
  • ⑥ 映画などの文化産業
  • ⑦ ぜいたく品
  • ⑧ エコロジー関係及び農業

 国家の経済状況がある程度成熟した今となっては元の単純な労働集約型の工業などに戻るよりこれらの産業に参入した方がいいということなのだろう。

 このように近代化された生産業が再び生産拠点としての温州を盛り立てるようになるかもしれない。

 また、一方、常に新しいビジネスチャンスを探している温州人にとって大きなチャンスとなる条例が2009年に出された。それは「放貸人条例」といい、ほかから資金を受けなければ、企業や個人が業として金を貸してもいいという内容だ。温州人にとって銀行家になることが一つの憧れだ。また、起業する人の多い温州では小規模かつ審査の厳格ではない金融業者が求められている。もちろん、この条例にも多くの制限があり利率や貸出金額、貸出期間などが定められているが金融業に民間から参入できるようになったことは大きい。

 本書では民間企業が国有企業に比べ如何に冷遇されているかということを何度も述べているが、金融業といい、ほかの分野といい民間企業の立場は強くなっている。「商売の天才」温州人が、危機を乗り越えどのようなビジネスを見せてくれるか見続けたいと思う。

コメントする
コメントに関する諸注意(必ずお読みください)
※コメントの掲載は編集部がマニュアルで行っておりますので、即時には反映されません。

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾