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変化するマザー工場のあり方

第2回:マザー工場システムが変化を求められているわけ(下)

  • 中川 功一=大阪大学大学院経済学研究科講師
  • 2012/10/30 00:00
  • 1/3ページ

 「兵站(へいたん)線が伸びきってしまう」――。トヨタ自動車を皮切りに、日系製造業各社がグローバル展開の加速による本国負荷増大に悲鳴を上げている。日系製造業にとって起死回生の策と思われたマザー工場システムが、本国工場や生産技術部門の業務負荷の急激な増大を引き起こしているのである。今回は、マザー工場システムとはいかなるものなのか、そして何が問題となっているのかを検討していこう。

マザー工場とは何か

 まずは、マザー工場とは何なのか、簡単に整理してみよう。マザー工場の定義については諸説ある。その答えは企業によって千差万別であるが、筆者なりにこれまでの見聞をまとめると、以下の3点がマザー工場の基本的機能になると思われる。

①技術移転
 同工場で開発された製品・生産ラインを、そのままの形、あるいは現地向けに修正して海外工場に移転する。
②技術指導
 海外工場の生産・開発の能力構築のために、現地エンジニアやワーカーの技術・技能育成を行う。
③問題解決
 海外工場の操業を定期的にチェックし、現地だけでは解決不能なトラブルの発生時には解決に乗り出す。

 マザー工場は、この3つの活動を通じて、日本工場のものづくり能力と海外工場のローコスト・オペレーション能力を結合させ、高い品質とコスト競争力を実現する。東南アジアや中国に設立された海外工場は、労務費などのオペレーション・コストでは日本工場に秀でるものの、技術やノウハウは十分ではない。他方で、日本工場はオペレーション・コストに劣るものの、長年蓄積されてきたものづくりの技術・ノウハウがある。この2者を繋ぎ合わせる手法として、マザー工場は、日本のものづくりの起死回生の一策だと認知されるようになったのである。

 マザー工場が礼賛された背景には、閉鎖も止むなしと考えられていた国内工場に、積極的な存在意義を与えることができたからという理由もある。バブル崩壊と円高に苦しんだ1990年代、グローバル競争や自社海外工場に圧迫され、日本企業は国内工場を維持する理由を失っていた。それに対し、マザー工場システムは、国内工場に「海外工場の支援・育成を行う、ものづくりの“母”」という存在意義を与えたのである。こうして、グローバル事業に乗り出す日系各社は、国内工場を自社のものづくりの中核に、海外工場を周辺に位置付ける、本国中心型の生産ネットワークを構築していった。

 なお、誤解のないように述べておくが、筆者は、マザー工場システムを否定するつもりはなく、むしろ上記のマザー工場の機能・思想には基本的に肯定的な立場である。国内工場のものづくり能力は、日本企業固有の武器であることは間違いないし、その武器を海外工場オペレーションというもう1つの武器と組み合わせて使う、というのは至極妥当な発想であると思われる。

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