─新しいゲーム機を開発するに当たって,加速度センサやタッチ・パネルといった要素技術をどうやって探すのですか。

 任天堂は要素技術の開発はしていないので,そこはたくさんのメーカーの力に頼っています。ただ,例えば加速度センサは本来,Wiiのように使われるものではなかったはずです。全然違う用途に向けて作ったものに,新しい使い方が発見されたという典型だと思います。

 タッチ・パネルも昔からあった技術ですが,メーカーはDSでこんなふうに使われるとは思っていなかったでしょう。実際,DSの開発初期のころ,ものすごい勢いでタッチ・パネルをペンでこするようなゲームを試作したら,メーカーの方から「タッチ・パネルはそんなふうに使うものじゃないですよ」と言われたことがあります。

 だから,作ってみたけれど何に使っていいのか分からないというエレクトロニクス・デバイスがあれば,ぜひ見せてほしいです。それで,良いアイデアがひらめいたらお互いにプラスになりますからね。ただし,私たちが民生用で使うものは量産効果がすごく出ますが,コストの要件は厳しいですよ。

─これからのエレクトロニクス技術者に必要なものは何だと思いますか。

 知的好奇心だと思います。好奇心のない技術者が大成するはずがないし,ものすごい速度で変化している世界にいて,新しいことを覚えることを面白いと感じない技術者が,世の中で必要とされるものを生み出せるはずがないでしょう。

 新しいことを学んで身に付けることが,その人にとってご褒美と感じられるサイクルが生まれるかどうかがすべてだと思います。これは,私の中ではゲームの定義と全く同じロジックなんですけどね。

 世の中には二通りのタイプがいます。新しいことを歯を食い縛って身に付ける人と,「歯を食い縛ったりしない,だって面白いから」という人です。私もこれまで,この人はすごいなと思う人,「天才」と呼びたくなる人に出会ったことが人生の中で何回かありました。そういう人は例外なく,人が苦行と思わなければ続けられないことを延々と楽しそうに続けています。道を究めるのは,そんな人ではないかと思っています。

 だから,学生向けの会社説明会などでは「ご褒美を早く見つけた人は有利ですよ」と話しています。自分にとってのご褒美とは何か,つまり,自分は何に喜びややりがいを感じ,これなら明日も頑張ろうと思うことが見つけられるか。それを見つけて,どんどん新しいことを身に付けてほしいです。