いわた さとる 1959年,北海道生まれ。東京工業大学 情報工学科を卒業後,在学中に設立にかかわっていたHAL研究所に入社。「星のカービィ」シリーズなど任天堂ゲーム機向けのソフトウエア開発を手掛ける。1993年に,HAL研究所 社長に就任。2000年に,当時社長だった山内溥氏に請われて任天堂に入社。経営企画室の室長として,グローバルな企業戦略の立案を担当。2002年に,異例の若さで同社 社長に就任,現在に至る。

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JTNインタビューの初回を飾るのは、任天堂 取締役社長 岩田 聡氏である。これからのエレクトロニクス技術者に必要なものは、「知的好奇心」だとし、「新しいことを覚えることを面白いと感じない技術者が,世の中で必要とされるものを生み出せるはずがない」と説く。長時間にわたったインタビューを3回に分けて掲載する。今回は、その第2回である。聞き手は、日経エレクトロニクス編集長 田野倉 保雄(当時の役職)と道本 健二。

─最近のDSやWii向けのゲーム・ソフトは,従来のゲームの定義に当てはまらなくなっています。岩田さんなりのゲームの定義を教えてください。

 そうですね,まずエンターテインメントの定義からしましょうか。私は,エンターテインメントとは「人を,良い意味で驚かせるもの」だと思います。その中で,人とインタラクティブにやり取りをするエンターテインメント全般がビデオ・ゲームであると考えています。

 ビデオ・ゲームをやるときには,人はゲームに対して,キーやボタンなどを使って何か入力しますよね。入力(操作)には労力やエネルギーが要ります。その労力やエネルギーに見合う,またはそれ以上の“ご褒美”と感じられるリターンを返し続けるものは,何でもゲームだと私は考えています。ご褒美というのは,生理的に気持ちいい感覚とか,感動するストーリーを味わえる,豪華なムービーが見られる,脳力が鍛えられる,料理が作れるようになる,英語が聞き取れるようになるといったことです。そう考えると,過去にビデオ・ゲームと呼ばれていたものは,ゲームの中のほんの一部だったということになります。

 このように,ビデオ・ゲームの定義を広く考えることは大事なポイントでした。ご褒美の構造を柔軟に考えることで,従来とは異なるユーザー層にリーチできる可能性が見えてくるからです。

 コントローラを自在に操作することが楽しいとか,長大なストーリーが面白いといった従来型のゲームのご褒美にまるで魅力を感じない人たちでも,健康に役に立つとか脳が鍛えられるといったご褒美であれば興味を持つかもしれない。それがゲーム市場の拡大につながっていきます。私は,この市場にはまだまだ広げられる余地があると思っています。

 例えば,受け身の娯楽であるテレビは,人口のほぼ100%に受け入れられています。これに対して,ゲームはどうでしょうか。私は,人生でビデオ・ゲームを体験した人の割合はせいぜい7割ぐらいだと思います。まだ3割も,これまで全く縁がなく,きっかけもなかった人たちがいるわけです。また,昔はやっていたけど今はやりませんという人もいるでしょう。その方々にも,ご褒美の構造を変えることで,リーチできる可能性があるはずです。