─DSやWiiは,ゲームの入力方法を革新しました。入力方法の変更はご褒美の構造を変えるというアイデアと同時並行的に考えたのでしょうか,それともご褒美を考えることで入力を変えようという発想が自然に出てきたのでしょうか。

 どちらかといえば後者です。入力方法を刷新しようということから始まったわけではありません。どうすればゲームに触れる人を増やせるのか,テーマを広げたとしてそれは十字キーとABボタンで遊べるのかと考えるわけです。そうして,タッチ・パネルやマイクという入力手法が検討の俎上に載ってくる。

 さらに「こうすればいろんな人が直感的に操作できる」とか「これなら川島先生の脳トレ・ドリルをそのまま電子化できる」といった発想が出てくるのです。最初からすべて計画されていたわけではなく,走りながらその都度,新しいことを考えながらここまで来ました。

 DSやWiiで行った入力の刷新には,別の理由もありました。「5歳から95歳まで年齢・性別・ゲーム経験の有無を問わず遊べる」と同じような目標としてよく口にしていた「誰もが同じスタート・ライン」というスローガンです。

 ゲーム業界全体が発展していた時代は,私たちもゲームをより複雑にする方向にどんどん突き進んでいました。作り手にとっても作りがいがあって面白かったからです。しかし,そうした方向に突き詰められていった結果,ゲームはうまい人と下手な人の差がものすごく開いてしまい,下手な人がおいそれと手を出せないものになってしまいました。

 いつの間にか大事な人たちを置き去りにしたことに,市場が小さくなり始めてだいぶたってから気付きました。そこで「みんなが同じスタート・ラインに立って遊べるものを作らなければいけない」と。それがきっかけで入力の刷新が必要だという議論になり,DSやWiiで実行しました。

 もう一つ,大事なスローガンがありました。「お母さんを敵にしない」です。任天堂がゲームキューブで苦戦していたころ,調査をすると,子供たちはほぼ全員ゲームキューブを欲しがっているけれど,お母さんが「もうゲーム機は要らない」と言っていることが分かりました。「うちには『プレイステーション』があるから,これ以上は要らない」とね。

 一時期,ゲームはすごく悪い面ばかりが語られて,犯罪が起こるとゲームのせいにされる論調がありました。ゲームは,使いようでは家族みんながニコニコできる素晴らしい娯楽なのに,すごく悪者扱いされて,お母さんの目の敵状態でした。そこで,お母さんに嫌われないようなものを作るぞというスローガンを加えました。これは,Wiiの開発方針に大きな影響を与えました。

(次回につづく)