3輪車が復活するかもしれない。日本エレクトライクが市販に向けて造っている試作車を見せてもらって、そう思った。

 日本にも3輪車が幅を利かせていた時代があった。軽自動車だけでなく、2.0Lクラスの大きな3輪車も街を走っていたことを思い出す。日本が貧しく、タイヤ1本が貴重だった時代のことだ。タイヤと、それにまつわるいろいろなものを省略できる3輪車の存在価値は大きかった。

 その後、日本が豊かになるにつれ、より上級の4輪車に移行するのは自然の流れだった。しかも、3輪車はちょっと怖かった。車種によっては、左折するときに、よくひっくり返ったのだという。

 今となってみると、3輪車は捨てがたい。「4輪車では大げさ」と思えるような車種への要求が強まってきたからだ。

 免許を持っている65歳以上の高齢者の数は、2010年の1280万人から、2030年には2840万人と、ほぼ倍増する。高齢ドライバーは高速道路を使わず、30kmも走らない人が多い。軽自動車にしても最高速度100km/h、航続距離は700km近いから、これは立派すぎる。

 配送用のクルマもそうだ。今、配送に使える小さな交通機関としてバイクと軽自動車がある。その間が空きすぎている。積載量で言うとバイクはどう頑張っても60kg、軽が350kgだから、その中間、例えば100kgや200kgの荷物を運ぼうとすると、今のクルマは立派すぎる。

 もっと遅く、もっと小さいクルマがあってもいい。そう考えた多くの会社が、それぞれの考え方でもっと小さいクルマを造っている。その中に、いくつか3輪車がある。

 もともと3輪車を選んだ動機は技術的なものではない。「側車付き自動二輪」という車両区分があるので、それを生かそうとして始まった。

 しかし、今の技術で見ると、三輪車は意外と捨てがたい。

 何しろ走行抵抗が小さい。4輪車は直進性を持たせるため操舵軸にトーインが必要だ。タイヤに滑り角を与えながら走るので、それが抵抗になる。前1輪の3輪車は1輪だけで操舵するから、少なくとも前にはトーインがない。

 ユーザーは年金生活者や配達業者である。クルマはできるだけ安い方がいい。そのためには高価な電池の量は少ない方がいい。そのために走行抵抗は少ない方がいい。あとはひっくり返らないことを保証すればよい。

 日本エレクトライクの3輪車は、モータを2個積み、左右の車輪をそれぞれ駆動する。左右の駆動力配分を制御することによって、3輪車特有のアンダーステアをなくし、ひっくり返りにくくする。

 言うのは簡単だが、なかなか実現しない技術だった。インホイールモータなどは必然的に左右別々のモータになるのだが、苦労しているようだ。問題は直進性である。共振があれば、ふらついてしまう。制御なのだから、分解能未満の微妙な動きには対応できない。

 トルクベクタリング、ESC(横滑り防止装置)など、制御でクルマの方向を決める技術は増えているのだが、左右独立モータより、直進は楽だ。差動歯車機構のピニオンに摩擦や慣性があるから左右はそこそこつながっている。

 まだ開発中ではあるのだが、日本エレクトライクはその辺を解決してくるのだろう。何しろ、担当の技術部長は、日産自動車でHICAS(High Capacity Actively Controlled Suspension)の開発をしていた人物だ。車体滑り角、タイヤ滑り角、操舵からの応答遅れの関係を知り尽くした人が設計すれば、安全で素直な特性のクルマができると期待していいだろう。

 こうした3輪車の開発を進めている日本エレクトライク、フィリピンで3輪車に乗り出すテラモーターズをはじめ、超小型EVを開発しているメーカーの方をお呼びしてセミナーを開く。3輪車に絞ったわけではなく、4輪車も登場する。新規参入もままならない普通のクルマとはちょっと違う、超小型EVに取り組む人たちの熱さを感じていただきたい。