“ものづくりIT”で理想の製造業を実現する

 独自の進化を遂げた日本の携帯電話が“ガラケー”と揶揄されているように、日本市場向けにあまりに独特な形に高機能化し、ガラパゴス化した製品は海外では通用しない。しかし、社内のプロセスはガラパゴスでもよいはずだ。もともと日本の製造業の武器である擦り合わせ能力は、会社の文化や社風が共有されてこそ最大に発揮されるものである。しかし、製品が複雑化し拠点がグローバルに分散するようになると、この前提も危うくなってくる。

 このような危機を補うのがITの役割だが、このITに関して、設計を支えるPLMシステムや、調達や製造を支えるERPシステムなどのように、全社システムの統合が理想だと考える人も多いだろう。しかし、多岐にわたり日々変化する業務プロセスにマッチした、巨大なシステムを開発するのは現実的ではない。資金力に余裕のある大企業ならこのようなシステム構築にある程度は挑戦できるかもしれないが、部品の調達先となる中小規模の会社では高額なシステム導入は困難だ。ならば、日本の“現地現物”という文化に合ったIT、ものづくりに関わる情報を必要とする、すべての人が活用できるITを考えるべきだろう。ここでは、これを「ものづくりIT」と呼ぶ。

図1●コンカレント・エンジニアリングの実際
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 日本の製造業に合致したものづくりITでは、設計の3次元CADデータを起点とした製品の設計情報をグローバルに共有し、必要とする人が効果的に活用できるようにすることを目的とする。かつて米国では「コンカレント・エンジニアリング」が提唱され、設計、試作、製造を順次進めるのではなく、並行に進めていくことで、タイムリーかつ高品質な製品開発を実現しようという議論があった(図1)。1980年代半ばのことである。そして、これをITで支援するのが3次元設計を基盤としたCAD/CAM/CAEだった。やがて、これらが設計部門に普及するにつれデータをPDMで管理しようという考えが生まれ、設計至上主義の欧米型PLMシステムの提唱につながっていった。

図2●ものづくり情報の共有によって実現する
「ものづくりIT」
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 これに対し日本型ものづくりITでは、この情報共有と活用の範囲を製造やサービス、保守サービス部門にまで拡大するのが特徴である。図2(軽量3次元データ形式であるXVLを用いた例)に示したようにCADで設計した3次元データに設計や製造に必要な情報を付加し、それをものづくりに関わる全員で共有するのである。3次元で情報を持たせるのは、製品情報を誰にでも分かりやすく伝えられるからだ。製品情報やその組み付け手順、部品属性を全て3次元とひも付けて提供することで、誰もが必要な時に必要な情報を入手し、必要に応じて修正し、情報伝達にも利用できるのである。