「え、成立したの?」
 2012年9月に、京セラが「3本バスバー電極構造」を採用した太陽電池モジュールの特許を取得したと発表しました(関連記事)。その直後、意見を求めるために電話した太陽電池研究者の最初の反応が、冒頭のコメントです。静かな声でしたが、非常に驚いているのが伝わってきました。

 この研究者によると、「出願していることは、以前から知っていた」といいます。日本進出を検討する海外の太陽電池メーカーに、出願中のこの特許について聞かれたこともあるそうです。国内外の太陽電池関係者が注目していましたが、「成立しないだろう」というのが大方の見方だったようです。ところが成立したことから、太陽電池業界は今、大騒ぎになっています。

 バスバーとは、結晶Si型セルの表面に見える太い電極のことです。その電極の数が3本なのが、3本バスバー電極です。過去は2本バスバーが主流でしたが、2本から3本にすることで電極の電気抵抗が減るとともに、電極構造を最適化すれば受光面積も増やすことができるため、3本バスバーの採用が徐々に広がりました。

 そして、3本バスバー電極が業界の主流になったところで、特許が成立したのです。現在は「国内に流通する結晶Si型太陽電池モジュールの約6割が3本バスバーを利用している」(京セラ)状況です。

 ある弁理士の方に意見を聞くと、「特許侵害かどうかを外から見て判断できるため、非常に良い特許だ」と話してくれました。今後この特許問題は、どのような展開を見せるのでしょうか。弁理士の方は、「特許侵害による賠償を求めるのは時間と費用がかかるため、輸入差し止めが現実的な措置になるのではないか」としました。

 果たして、京セラはどのように動くのか。京セラへの取材内容を含めて、NEレポート「太陽電池業界に衝撃、京セラの3本バスバー特許」に掲載しましたので、興味がある方はご覧ください。

 なおNEレポート執筆後、シャープが3本バスバー特許についての対応を示しました。それは、「裏面の電極構造が異なるために、京セラの特許には抵触しないと考えている」(シャープ)というものです。ただし「言い争いになるのを防ぐために、裏面電極の構造の詳細は公表を控える」とのことでした。

 シャープ以外の、特許に抵触している恐れがある国内外の太陽電池メーカーは、どのように対応するのでしょうか。京セラの動きと合わせて、引き続き取材を続けるつもりです。太陽電池の技術セミナー「太陽電池のポテンシャル、技術開発はどこまで進むか」に登壇する講師の方々にも、事業への影響や過去の経緯などを聞いてみたいです。