着床式の洋上風力発電所であるウインド・パワー・いばらきの「ウィンド・パワーかみす風力発電所」(茨城県神栖市)
図1●着床式の洋上風力発電所であるウインド・パワー・いばらきの「ウィンド・パワーかみす風力発電所」(茨城県神栖市)
日立製作所製のダウンウインド型風力発電設備(2000kW)が7基稼働している

 日立製作所による富士重工業・風力発電部門の買収が完了した2012年7月1日。数十人の技術者が、通い慣れた宇都宮市にある富士重工の工場を離れ、茨城県日立市にある日立の埠頭工場で勤務し始めた。

 これまでも両社は風力発電設備のビジネスで提携関係にあった。富士重工がブレード(羽根)や動力伝達機構の供給、設備の組み立てなどを担当し、日立は得意の発電システムを担当していた。一方、営業・販売面は日立が一手に引き受け、後発ながら国内シェアを徐々に高めてきた。

 今回、日立は買収によって事業のスピードを一気に加速しようともくろむ。「製販一体になったことに加え、風力関連の技術者が一つの部隊になったことで、開発スピードも上がる。本格的に風力発電事業に打って出る体制ができた」(日立製作所電力システム社の発電システム本部の大和田政孝チーフプロジェクトマネージャー)。買収が完了して間もない7月12日、日立は出力5000kWの洋上風力発電設備の開発に着手したことを発表した。

 密な提携関係にあった両社が、このタイミングでなぜ買収に踏み込んだのか。その背景を探ると、経済産業省の姿がちらつき始める。

 福島第1原発の事故を受けて、経産省は国内の風力発電、特に洋上風力発電の開発に本腰を入れ始めている。同省主導で進んでいる福島県沖での洋上ウインドファーム(大規模風力発電所)の建設プロジェクトでは、風力発電設備メーカーとして三菱重工業と日立製作所が名を連ねている。三菱重工は世界的な風力発電設備メーカーで、洋上風力に関しても、既に英国の洋上プロジェクトに向けて7000kW機の開発を着々と進めている。先行する三菱重工に加え、国内で日立が洋上風力への参入に名乗りを上げたことになる。