類似製品の図面を引っ張り出して、流用できそうな部品はそのまま使い、使えずともできる限り部分的な変更で済ませたい――。程度の差こそあれ、多くの設計者が流用設計の経験があるのではないでしょうか。やむにやまれず流用しているという実情もあるかもしれませんが、その功罪ははっきりと認識しておくことが今後は大切になってきそうです。

 試作や実験を一から実施する必要があるような新規設計よりも、流用設計は開発期間/コストの点で有利です。せっかく先人が試行錯誤して完成させ、市場での実績を積んだ部品があるのなら、それを流用するに越したことはありません。設計者にとって安心で、期間もコストもセーブできるのですから。

 もちろん、製品として組み上げた場合の諸条件が異なれば、それに対応した検証は実施するはずです。しかし、それは不具合が発生しないこと、性能や機能などの条件を満たせることを確認できるだけ。流用した部品が「最適」かどうかを検討したことにはならないのです。

 なぜ、そこがその形状、寸法になっているのか――。流用設計する際に全てを検証していては、ややもすると期間短縮という目的を達成できないかもしれません。部品の共通化/標準化という視点もありますから、全ての部品をその製品に最適に、つまり部分最適にすることは現実的ではないとも言えます。

 しかし、もし全体最適と矛盾しないようなムダが潜んでいるならば、それは排除しておくべきでしょう。流用設計が今後も続くことを考えれば、なおさら、そのムダの影響範囲を小さくとどめなくてはなりません。

 例えば、穴に挿入する棒の先端が面取りしてあったとします。2012年10月号から連載を開始した「再チャレンジ 組立性・分解性設計」の中でも紹介した事例ですが、こうすることで棒を穴に差し込むという組立作業のしやすさが格段に向上するわけです。

 では、この面取りの寸法や角度はどうあるべきなのでしょうか。図面に「C10」と書かれていた場合、本当に45°という角度や10mmという寸法を厳密に守る必要があるのかは、一考の余地があります。30°の時、15mmの時に目的の機能を発揮できるかどうかは、設計でなければ判断できません。

 同様の目的で穴に面取りをした場合、加工担当者は「C10」という図面の指示を守るために、穴加工とは別に面取り加工をしていたとします。ところが、角度や寸法を少し変えられるのならば、穴加工と面取り加工を同時に実施できる工具を持っていました。もし、図面で適切に指示できたならば、加工コストを削減できたはずです。

 面取りの話はとても単純かもしれませんが、図面には同様のムダが数多く潜んでいるはずです。デザインレビューにおけるフィードバックで発覚すればよいですが、加工を外注する場合などにはなかなか明らかにはならないでしょう(逆に、このようなことを提案できる加工メーカーは、高い競争力を持てるようになります)。

 さらに最近では、取引先のグローバル化に伴って、従来は発生していなかった不具合も発生しているようです。流用設計の前後で取引先を変更したため、全く同じ図面でも出来上がってきた部品が異なったものになってしまった――。流用図面の実績は、実は特定(多くは国内)の発注先だからこそ保たれていたのです。

 その原因はさまざまですが、その1つが公差の扱い。寸法公差だけでは形状を厳密に定義するのが難しいことはよく知られています。従来はその曖昧な部分をあうんの呼吸で推測し、加工されていたのが、海外の加工メーカーにはその常識は伝わらない。最近、多くのメーカーが幾何公差についての教育を積極的に進めています。

 公差に関しては、実際に納品されている部品の精度といった工程能力に関する課題もあります。例えば、一般公差で指定してあった部分でも、国内であれば実際にはより高い精度で部品が納入されていた部品が、海外メーカーでは指示した公差どおりのバラつきで納入されるといったことです。図面どおりですから、不具合が発生しても文句は言えません。

 先人の知恵、実績を全て疑って掛かっていては、なかなか先に進めないかもしれません。しかし、全てをうのみにすると、思わぬトラブルに遭遇してしまいます。既存図面を作成した設計者の真意を読み取り、図面の受け手側のことも考慮した上で、適切な情報を適切な方法で描く。競争力を高めるためには、この基本を見直すことが大切ではないでしょうか。