最近、データセンター向けのストレージ技術について取材する機会がありました。今、ストレージ分野では高速のSSD技術が話題ですが、大容量のHDD技術も進化し続けています。前回のエディターズ・ノートでは、SSD技術を取り上げましたので、今回はHDDの話題をご紹介いたします。

 まず、データセンターなどで利用される大規模ストレージ装置は、内部のデバイスを高速な順に「ティア0」「ティア1」「ティア2」と階層化しています。ティア0は総容量の数%を占めており、高速なSSDが利用されています。ティア1は容量の数十%を占め、1万rpmまたは1万5000rpmの高速HDDで実現します。ティア2は残りの容量すべてであり、7200rpmの低速HDDを用いることが多いそうです。

 ここで、ティア1の高速HDDは近い将来、すべてSSDに置き換わると予想されています。NANDフラッシュ・メモリの価格が下がり、容量単価で高速HDDとほぼ同等になるとみられているからです。これに対し、ティア2に使われている7200rpmの低速HDDは非常に安価であるため、当面はSSDに置き換わらないと考えられています。また、ティア2では爆発的に増えるデータ量に対応するため、HDDの大容量化が極めて重要になっているそうです。

 こうしたティア2などの用途に向けた新技術として、例えば米HGST社は2012年9月、Heガスを充填したHDD「シールド・ドライブ」を2013年中ごろに製品化すると発表しました(関連記事)。現在5枚のディスク枚数を7枚まで増やすことができ、データセンターのTCO(total cost of ownership)を改善できるとしています。

 またTDKは、近接場光を利用した熱アシスト記録方式の磁気ヘッド技術を用いて、1.5Tビット/(インチ)2の面記録密度を実現しました(関連記事)。現在、幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2012」において、技術の詳細を展示しています。

 HDDの大容量化とともに、いかにHDDの電力を削減するかといった取り組みも進んでいます。例えば日立製作所は、使用していないHDDの電源を遮断することで、ストレージ装置の消費電力を約1/2にできる技術を東北大学と共同開発しました。事前に必要なデータを低速ストレージから高速ストレージに移しておき、低速ストレージの電源を遮断するという方法です。

 HDDの電源を遮断して低消費電力化する技術は、それほど性能が求められないティア2などのHDDでは有力な手法になりそうです。HDDの回転数に関しても、7200rpmもいらないとの指摘があります。ティア2では一度書き込まれたデータはほとんどアクセスされないため、HDDの回転数はもっと低くてもいいのではないかといわれています。回転数を下げると、消費電力を削減できるだけではなく、機構設計のマージンが広がるために大容量化もやりやすくなるそうです。

 データセンターのストレージというと、どうしてもSSDが注目されがちですが、やはりHDDの進化が欠かせません。今後もHDDの技術革新を追って行きたいと思います。なお、日経エレクトロニクスでは2012年10月1日号でデータセンター向けの各種技術に関する特集記事を掲載しています。ご興味のある方はご一読いただけますと幸いです。