スマートシティの事業はこれまで、再生可能エネルギーの発電設備や管理システムといったハードウエアを売ったり整備したりという観点で主に議論されてきた。しかしここに来て、サービスの視点で見直そうという動きが出てきた。既に米国や欧州では活発になっており、日本でも動きが加速し始めた。

価値やメリットを説明できていない

 「タウンミーティングを開いて市民に“スマートグリッド”について説明しても、素晴らしさは伝わらない」(国内のある自治体の責任者であるA氏)。CEMS(地域エネルギー管理システム)やBEMS(ビルエネルギー管理システム)といった次世代エネルギー管理システムの実証実験に取り組んでいる自治体は多い。これらの新しいシステムは多くの可能性を秘めているが、その基盤となるスマートグリッド技術について市民にいくら説明してもなかなか伝わらない。A氏のように、ここで悩んでいる担当者は多い。しかもA氏と同じ市の市議会議員からは「このようなことに税金を費やして、市民にとってのメリットがあるのか」という疑問が出てきている。

 当たり前である。市民は技術がほしいのではなく、どんなサービスが得られるのかが知りたいのである。現在はサービスの基盤となる技術を導入している段階という事情はあるものの、市民に対して具体的な価値やメリットを説明できていないのが現状だといえる。

 日経BPクリーンテック研究所の調べでは、世界のスマートシティの市場規模は2030年までの累積で4000兆円にも達する(スマートシティのインフラへの投資、つまりハードウエアへの投資を積み上げた金額)。年間でも200兆円近い。この市場を狙って、企業のみならず政府・自治体も含めて多くの関係者が産業構築、事業創造に挑んでいる。しかし、この膨大な市場は約束されたものではない。そのポテンシャルを引き出して市場を急拡大させるには、スマートシティの最大の受益者である市民の理解が不可欠となる。これが後回しになってきたのである。

 受益者であり主役である市民のメリットを明確にするために、ハードウエアではなく市民へのサービスの視点からスマートシティを見直し、きめ細かな説明が必要な段階に入ったのだ。