2012年9月18日の上海における反日デモ

 日本の尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化に抗議して北京、上海、青島、深センなど中国全土に吹き荒れた反日デモの嵐。中国に製造拠点を置く幾つかの日系製造業も破壊対象となったが、満州事変のきっかけとなった柳条湖事件81周年の2012年9月18日を最後に、筆者の住む上海でも一応の収束を見せた。

 それから7日後の9月25日朝、中国・台湾メディアに「暴動」の文字が踊った。本コラムで毎回のように取り上げている、電子機器受託生産(EMS)世界最大手の台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕が、中国山西省の省都(県庁所在地に相当)・太原市に置く生産拠点で24日未明、警備員と従業員の間に起きた小競り合いが暴動に発展、操業を停止した、というニュースだった。

 最終的に2000人が騒ぎに加わったという規模の大きさもさることながら、9月21日から発売されたばかりの米Apple社の新型スマートフォン「iPhone 5」の部品を、この太原工場でも製造しているとの観測が、このニュースの扱いを大きなものにしていた。奇しくも暴動が起こった同月24日、Apple社はiPhone 5の販売台数が、発売開始から3日間で500万台超と、過去最速のペースで推移していると公表した。太原工場でiPhone関連の生産をしているのかどうかについてフォックスコンはコメントを拒否しているし、1日休んだだけで、同月25日には操業を再開した。しかし市場や業界では、iPhone 5の供給に影響が出るのではないかとの懸念が広がった。

 ちょうど昨年の今ごろ発売されたiPhone 4Sへの乗り換えを我慢してiPhone 4を使ってきた筆者も、心待ちにしていたiPhone 5の供給の行方はもちろん気になるところ。ただ、太原工場の一件について、それよりもはるかに気になったのは、騒動のさらなる拡大を懸念する大きな意向が働いて一連のデモが収束を見せたのだろうに、その直後に暴動が起き、しかもそれが、日本とは関係のない理由だったという点だ。地方の一工場で起こったあくまで個別のケースだといえばそうなのだが、一方で、容易に着火するマグマがとぐろを巻いているような社会状況を象徴する出来事だったような気もするのである。