日本のものづくりが生き残る道として、脚光を浴び続けてきたマザー工場システム。しかし、グローバル化の進展により、従来型のマザー工場システムの限界が露呈しつつある。本コラムでは、従来型マザー工場システムが抱える構造的問題とは何か、そしてどのような改革が求められているのか、先進的な企業事例を紹介しながら解説する。
大阪大学大学院経済学研究科 講師
「兵站(へいたん)線の伸び」をキーワードにしながら、本コラムでは、加速する海外展開に合わせてマザー工場のあり方をいかに変えていくべきかを議論してきた。最終回となる今回は、これまでの議論や紹介事例を踏まえ、国内ものづくりの今後について、幾分のエールを込めた総括を行いたい。
異なる進化の可能性
兵站(へいたん)線の伸びを防ぎ、さらなる成長の方向性を描くためには、生産拠点の母子関係を再構築しなければならない。ダイキン工業の事例からは、子供の自立と、それ以上に親の役割変化が求められることが理解できたと思う。すなわち、海外拠点においては、日常のオペレーションや生産立ち上げ、場合によっては量産設計…
本国製造拠点の進化
市場が多極分散したグローバル経済下では、本国が海外のものづくりの全てを支えるという「旧来型のマザー工場システム」は立ち行かなくなる。そこで第1に必要となるのは、各国拠点が現地の事情に合わせて自主的に製品設計を修正し、生産ラインを立ち上げるという、「海外拠点の自立化」である。前回は、ダイキン工業を題材…
マザー工場制の弊害と海外工場の自立化
ダイキン工業において、マザー工場システムはグローバル生産ネットワーク全体の能力強化に大きく貢献した。マザー工場システムの導入によって、ダイキンはそれまで場当たり的な対応で終始していた海外支援を組織的・計画的に行えるように変革し、さらにそれを通じて世界各国の生産拠点に「ダイキン流のものづくり」をあまね…
マザー工場制の導入
前回までは、従来型のマザー工場システムが持つメリット/デメリットを整理し、次への進化に向けて、海外拠点の能力的な自立と本国拠点の位置づけの変革が必要であることを説いてきた。今回からは4回にわたって、ダイキン工業・空調機事業における取り組みを中心に、何社か実例を挙げながらマザー工場システムの変容につい…
あるべき「母親」そして「子」の姿とは
マザー工場システムは、日本のものづくり能力と海外のローコスト・大規模生産能力をつなぎ合わせる、日本企業の起死回生の策であった。しかしこのシステムでは、海外向け製品の開発から海外での量産活動のトラブルシュートに至るまで、多くの業務が本国拠点に集中する。このため、従来型のマザー工場システムでは、拠点のグ…
「兵站(へいたん)線が伸びきってしまう」――。トヨタ自動車を皮切りに、日系製造業各社がグローバル展開の加速による本国負荷増大に悲鳴を上げている。日系製造業にとって起死回生の策と思われたマザー工場システムが、本国工場や生産技術部門の業務負荷の急激な増大を引き起こしているのである。今回は、マザー工場シス…
兵站線の伸び
「予想以上に速いスピードで、パーッと世界展開と車種展開が広がりました。そして、海外26カ国に51の事業体を持ち、年間の生産台数が800万台という段階に来ていたわけです。…(中略)…。これだけグローバル展開が進むと、兵站(へいたん)線を整えなければならない。事実、兵站線は伸びきっています。…(中略)……