米Apple社の製品は、要求水準が高く品質管理基準も厳しいため、液晶パネルのサプライ・チェーンを構成する企業(パネル・メーカー、部材メーカー、OEM生産委託業者)にいつも難しい課題を突きつける。「世界で最も豊富な液晶製造技術を持つ企業は、実は、生産設備を持たないApple社かもしれない」と、アジアで言われているほどである。

 とはいえ、どの製品モデルも生産量が多いことから、Apple社のビジネスは液晶パネル業界にとって常に魅力的な存在だ。安定した生産と、薄型・軽量・高精細・低消費電力・広色域・広視野角といった機能の高さゆえのパネル価格の高さが、液晶パネル業界から見たApple製品の特徴である。興味深いのは、生産能力の確保と技術の利用のため、Apple社がアジアの液晶パネル関連企業に投資していることだ。Apple社はこれまでにも、液晶パネル・メーカーが長期的かつ戦略的な工場を構築する際に、設備投資を部分的に負担している。

 液晶パネル関連企業は2012年7月初め以降、Apple社のビジネスに対応するための準備に力を注いできており、その動きは2012年後半に本格化する。Apple社は「iPhone 5」に続き、「iPad Mini」「改良版New iPad」を順次製品化する予定だ。これらの携帯端末はいずれも高精細・薄型・軽量・低消費電力という特徴を備えている。その生産のために、液晶パネル業界が多忙を極めることは間違いない。

 Apple社の新製品生産にかかわっている液晶パネル関連企業は、米Corning社、ジャパンディスプレイ、韓国LG Display社、シャープ、台湾AU Optronics(AUO)社、台湾Chimei Innolux社、韓国Samsung Display社、台湾Radiant社、台湾Coretronic社、台湾TPK社、台湾Wintek社、台湾Hon Hai Precision Industry社(鴻海精密工業、通称Foxconn)などの各社である。当社はこれらApple製品の生産と出荷を、下の表1のように推定している。

表1 Apple社の新製品の生産と出荷の規模(単位:百万台)
出典:NPD DisplaySearch推定
[画像のクリックで拡大表示]

 iPhone 5に搭載される液晶パネルの画面サイズは4.0型になり(iPhone 4Sは3.5型)、精細度は326ppiまで向上した。インセル方式タッチ・センサの組み込みに革新的な技術が用いられていると言われており、液晶パネル・メーカーにとっては歩留まり管理が大きな課題となる。LG Display社とジャパンディスプレイは量産できるレベルに達していると言われており、シャープも9月中にはパネルの出荷を開始できる見込みだ。

 iPad Miniは、2012年第4四半期に発売の見通しである。iPadに比べると画面サイズが7.85型と小さく、製品を回転させて見るのが好きなユーザーをターゲットにしている。超薄型の形状で、低消費電力型の液晶パネルや、フィルムタイプの投影型静電容量方式タッチ・パネルなどを搭載する見込みである。iPad Miniの液晶パネルはAUO社とLG Display社が供給することになる見通しで、Apple社からの注文を2社で分けることになる。LG Display社はIPS技術を使用し、AUO社はIPSの派生版であるAHVA技術を用いる。