日本は何を造ればよいのか?

 現在の日本において、競合力のある製品には何があるだろうか。自動車、バイク、一眼レフカメラなど、消費者向け製品で競合力を保つのは、独自の価値を提供できるものだろう。価値とは、デザインにせよ、機能性能にせよ、他人に自慢できるものがあるということである。通りすがりに思わず振り返ってしまうような“かぐわしさ”が必要だ。

 企業向け製品では、建機、電子部品、産業用ロボット、半導体製造装置、コピーなどの複合機が挙げられるだろう。これらの製品では、業界最高のコストパフォーマンス(費用対効果)を提供していることが評価されている。

 両者に共通するのは、擦り合わせで製品を作り込んでいる点だ。自動車では、走る、止まる、曲がるといった際の動特性、つまり、微妙な制御を各部品の擦り合わせで実現している。コピー機では、さまざまな種類の紙と多様なトナーの組み合わせでも紙が詰まることなく、機能を発揮できるような微妙な擦り合わせが必要だ。どちらも、いわゆる「インテグラル型」の製品である(図)。

図●モジュラー型とインテグラル型製品
藤本隆宏著「日本のもの造り哲学」から)
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 インテグラル型製品とは、複数の部品の微妙な組み合わせでその機能や性能を実現するものである。例えば、自動車の乗り心地は、エンジンやサスペンション、ブレーキの絶妙な組み合わせで実現される。日本の組織は擦り合わせ能力が高いので、インテグラル型の製品開発が得意である。日本の組織文化にマッチした製品開発によって、その製品の競合力は増す。製品を構成する部品間の擦り合わせと、部門を超えた組織間の擦り合わせの両方を、日本の製造業では、きちんとこなしてきたのである。

 一方、昨今の製造業の不振は、製品そのものがモジュラー型に変わったからだといわれる。モジュラー型製品では部品間のインタフェースが明確に定義されているので、部品を組み合わせるだけで製品を造り上げることができる。例えば、デジタル家電は微妙な調整が必要であったアナログ家電と異なり、新興国でも部品を組み上げるだけでそこそこの製品ができてしまう。モジュラー型では、部品の性能向上が、そのまま製品の性能向上に直結するので、擦り合わせの能力は不要になる。日本のお家芸であった自動車産業でさえ、フォルクスワーゲン社を筆頭に、世界中の多様なニーズに適した車を限られたモジュールの組み合わせで実現しようと、モジュラーデザインに挑戦している。

では、日本企業はどう対抗すればよいのだろうか。