理想の製造業のあり方

 柴田友厚著「日本企業のすり合わせ能力」によれば、製品の設計思想はインテグラル型からモジュラー型へと交互に進化していくという。新しい製品はインテグラル型の設計思想で開発される。初めての製品では、まず、きちんと機能するように開発することを優先するので、モジュールという考え方は乏しい。しかし、徐々に設計が洗練されてくると、モジュール間のルールが決まり、モジュール構造ができ上がる。こうして、設計合理性の高いモジュラー型に移行する。モジュラー型になって時間が立つと、やがて、分業が進んでくる。各部品メーカーは担当モジュールの開発に特化できるので、イノベーションが起きやすくなる。やがて、革新的な部品やモジュールが発明されることで、既存のルールが崩れ、製品はインテグラル型に戻るという。

 これをベースに、日本の製造業の理想像を思い切って単純化して考えてみよう。まず、日本で、全力で新しい製品を開発する。これはインテグラル型になる。設計がこなれてくれば、やがて、製品はモジュラー型に移行する。国内は製品の基幹モジュールの開発製造に特化し、組み立ては海外に移管する。同時に、国内では、製品の基幹モジュールのイノベーションに挑戦する。これが成功すれば、製品は再びインテグラル型になる。その時点で、再び日本のマザー工場で製造する。

 つまり、日本にはインテグラル型製品の開発拠点と製造拠点を置き、海外には安価にMade in Japanの品質を再現する製造拠点を、世界の消費地の近く、あるいは、戦略的な大規模製造拠点として置くのだ。これらの各拠点を、時とともに変貌する製品の設計思想に合わせて運用していくことがベストである。これが実現できれば、日本の擦り合わせ能力を最大に発揮し、企業の競争優位を実現していくことが可能だ。このような製品戦略がしっかりすれば、あとは、いかに早く、安く、質の良いものを製造する手法を考えるかが勝負になる。これを実現するのは、プロセス・イノベーションである。

 この理想の製造業の実現には、ITによる支援が不可欠である。次回は、このプロセスの概要について説明する。