PLMが世に出てからの約四半世紀は、世界の製造業にとっても激動の時代だったといえる。特に、商品の企画・開発・設計を担う先進国と労働賃金の安い生産地である新興国との関係は、グローバルにわたって相互に影響しあう協業/競合の複雑な構造へと変化した。さらに新興国各国は、急速に産業力を増して製品開発国へと進化。世界人口の半分以上を占める存在として国力を増強し、いまや巨大な消費市場を形成しつつある。前回まで述べた通り、これは日本の製造業にとって脅威であると同時に好機でもある。

 こうした中、PLMは航空機OEM(Original Equipment Manufacturer:自社ブランド製品を製造する事業者という本来の意で使用)の、グローバルなデータ管理の仕掛けであるPDM(Product Data Management)から出発した。そして、徐々に進化しながら自動車、ハイテク、家電、精密、建機、工作機械業界のOEMなどに普及していった。同時にそのコンセプトも、当初のデータ管理からグローバルなデータ連携、プロセス・マネジメント、ノウハウ・マネジメントなどへと重心を移しつつある。

 では、その間の日本における適用実態はどうだったのか。今回と次回は、この点を中心に振り返っていく。

この四半世紀におけるPLMとその適用の変化

 イメージしやすいように、この四半世紀の日本の製造業を取り巻く環境やPLMの変化(PLMベンダーの動き)、PLM構築実態の動きをにまとめてみた。PLMの元となったPDMが生まれた1980年代も参考として含めている。

表●四半世紀におけるPLMとその適用の変化
関係項目/PLMの時期表現 製造業を動かした関連キーワード ベンダーの動き(3次元CAD、PDM、PLM) 日本企業の(CAD)、PDM、PLM導入実態
1980年~1990年
(PDM開発期)
◆CAD/CAM/CAE
◆開発設計と生産の水平分業(海外生産)始まる
◆日本経済バブル期 “Japan as No.1”
◆家電
◆メインフレーム、ミニコン・ターンキーCAD全盛期 (CADAM、CATIA、CALMA、APPLICON、CV)
◆ワークステーション上で稼働するCADに移行期
◆3次元ソリッド(Unigraphics、I-DEAS)
◆フィーチャーベース・ソリッド(Pro/ENGINEER)の出現
――PDMという概念が生まれた時代
◆自動車会社メインフレームCADの全盛の頃
◆自動車以外の多くの業界はCADによる設計の黎明期
◆80年代後半ワークステーションCADにより設計現場に普及
◆世界の航空機業界が3次元設計を試行
1990年~2000年
(PDM全盛期/PLM開発期)
◆日本バブル崩壊(失われた10年)
◆CIM(Computer Aided Manufacturing)
◆CALS(Continuous Acquisition and Life-cycle Support)
◆BPR(Business Process Reengineering)
◆Boeing777のDMU、PDM(1993)
◆選択と集中〔米国(GE)⇒日本〕
◆水平分業化(PC)
◆米国の再生(IT)
◆米国を中心にPDMの開発・リリース全盛期
・Sherpa、Matrix
・Metaphase1.0:1993
・Product Manager:IBM
・Siemens PLM:1995
・SmarTeam:1995
・Agile
・Matrix One:1997
・Windchill:1998(Webベース)
◆日本製PDMの開発期  Obbligato(NEC):1991~、PDMSTAGE(富士通)
◆XVL(3次元ビューワ):ラティス・テクノロジー
――PLMという概念が生まれた時代?
◆自動車業界は自社CAD、他の業界は市販CAD
◆1990年後半:PDM導入の開始期
・目的:データ管理、海外製造現法との情報連携
◆バブル崩壊後の体質強化としてのBPR、フロントローディングとして3次元CAD、CAE、PLMの展開を計画した時期
◆1990年代後半:PDM導入の全盛期
◆航空機産業がグローバルデータ管理PDM
2000年~2005年
(PLM導入期・導入最盛期)
◆米国ITバブル崩壊
◆日本の失われた10年(の継続) 情報通信産業の大規模リストラ
◆ERP、PLM、CRM普及期
・BOM連携(CRM⇔PLM⇔ERP連携)
◆擦り合わせ型(自動車、事務機器)
・垂直統合型
◆モジュール型(PC、液晶TV他)
・水平分業化(ハイテク・家電)
◆PLMベンダーの開発・リリース最盛期
・IBMとDassault Systems(DS)がPLM提唱:2000
・中規模PLM SmarTeam(DS):2001
・日本製PDM・e-OpenPDM(PLMコア)、FullWEB(コネクテッド)など
◆自動車業界も他の業界も3次元 CAD化全盛期
◆PLMとして、特に上流BOM構築普及期
・自動車産業のPLM導入最盛期
・ハイテク・電気・電子・精密業界のPLM導入期
・建機業界のPLM導入期
・工作機械業界のPLM導入期
◆導入実績(日経ものづくり2006年9月号より)(%は既に導入+構築中) 企業規模1万人以上:30%弱、1000~1万人:25%弱、1000人以下:10%以下
PLM進化期
(2006年~現在)
◆リーマンショック
◆EU経済危機
◆先進国の低成長化
◆新興国の高成長化(比較論として)
◆グローバル水平分業の拡大
◆BCP対応
◆グローバル情報基盤
・グローバルPLMへの訴求〔製品情報+プロセス+プロジェクト(人)管理〕
◆統合プラットフォーム構想ソリューション(Teamcenter9、ENOVIA V6、Windchill10.0)
◆日本型ものづくり対応日本製統合PLM
・統合PLM Plemia(富士通):2006
・ObbligatoII(NEC):2008
・PLM Japan:PLM console
◆PLMの多様化
・Presight(図研)
・ERPベンダーのPLM(SAP PLM)
・データベース・ベンダーのPLM(ORACLE:M&A Agile)
・ライセンスフリーのPLM(Aras)
(下記のような傾向はあるが全体としては停滞気味)
◆進化(既導入企業の質的進化)
・グローバル設計のデータ管理への進化
・上流BOMと関係するBOMの連携
・プロセス、プロジェクト管理までの適用例は少
◆拡大
・日本製PDM・PLMの拡大
・中堅企業、個別受注業種の導入期)
◆2010年時点での展開実態(日経ものづくり 2010年9月号より)導入済み:13%弱、構築中含めて:22%弱

このころ筆者は、川上の体質強化・改革を目的に、その戦略・戦術の1つとしてPLMの構築も行っていた。以降では、その折りの経験も交えながら各時期の内容を補足する。