産業機器や精密機械、民生機器などの電気・電子回路を実現するために使われる半導体。半導体といえば、2012年2月に経営破たんしたエルピーダメモリが手掛けるDRAMや、ルネサス エレクトロニクスがなかなか赤字体質から抜け出せないことで知られるSoC(system on a chip)など、メーカーの業績の浮き沈みが激しい事業分野との印象を持つ方は少なくないと思います。

 もっとも、半導体にもメーカーが高い利益率を上げている製品分野が存在します。その1つが、FPGA(field programmable gate array)と呼ばれる分野です。FPGAとは、設計者が開発現場で回路構成を柔軟に変更できる半導体のこと。このFPGAの分野では、米Xilinx社、米Altera社の大手2社が合計で約80%の市場シェアを持っており、寡占状態を形成しています。直近の四半期(2012年4~6月期)における大手2社の売上高営業利益率を見ると、Xilinx社が約28%、Altera社が約34%と好調です。

 FPGAが顧客に受け入れられている理由はいくつかあります。その中で、多くの機器メーカーにとってとても魅力的なのが、所望の機能を実現するための開発費が非常に低く、その結果、少量多品種の機器展開に非常に向くことです。

 従来の半導体(ASIC)では、回路情報を作り込むために用いるマスクセットの費用が必要になります。このマスクセットの費用は半導体の総開発費の約7割を占めるとの試算があります。厄介なことに、このマスクセットの費用は、半導体製造技術の微細化(設計ルールの縮小)とともに、高くなっていきます。半導体製造技術の微細化が進めば、従来と同じ機能を実現するために必要なシリコン(チップ)面積が小さくなるため、半導体チップのコストが安くなります。すなわち、微細化の進展に伴い、チップ単価は安くなるにもかかわらず、開発費(マスクセットの費用)は逆に高くなっていきます。開発費が1億円を優に超えるケースは珍しくありません。

 このように開発費が高騰する場合、1設計当たりの出荷個数が1000万個以上といった大量生産が可能な機器であれば、それほど問題にはなりません。しかし、出荷個数が1000個未満といった少量生産の機器では、開発費を回収するだけの売り上げを稼ぐことは容易ではありません。このような理由から、1設計当たりの出荷個数が民生機器ほど多くない産業機器や精密機器などの用途には、最先端の半導体を採用しにくいという問題がありました。

 こうした問題を解決できるとして期待を集めているのがFPGAです。FPGAは回路構成そのものを従来の半導体(ASIC)から抜本的に変更することで、開発費をグッと抑えられるようにしているからです。具体的には、回路情報を作り込むためにマスクセットを使わず、その代わりに、半導体チップ上に多数搭載したスイッチ回路のデジタルデータが「0」か「1」かによって、チップの回路構成を変更できるようにしています。このFPGAでは、スイッチ回路の面積が大きいなどの理由から、一般に従来の半導体(ASIC)に比べて、シリコン面積は大きくなりやすく、チップ単価は高くなりがちですが、その一方で、開発費を大幅に低減できます。多品種少量生産の機器にFPGAが向く理由の1つがここにあります。

 同じ機能を実現するために必要なシリコン面積が従来の半導体(ASIC)に比べて大きいというFPGAの課題も、ここにきて払拭されつつあります。FPGAでは、従来の半導体(ASIC)を上回るペースで製造技術の微細化が進んでいるからです。実際、大手FPGAメーカーのAltera社は、2012年9月6日に、20nm世代のプロセスで製造するFPGAに適用予定の要素技術の詳細を発表しています(Tech-On!関連記事)。従来の半導体(ASIC)を手掛けるメーカーでは、現時点で20nm世代のチップに適用する技術の詳細をここまで具体的に示しているところはありません。

 民生機器に比べて、多品種少量生産になりやすい産業機器や精密機械などの設計開発者にとって、FPGAはますます目が離せない存在になりそうです。