「次郎さん、ちょっと相談があるんだ。時間はいいかい?」。
 朝から部長、少々、深刻な顔していますヨ。心配ですワナ。

 「実は、次郎さんも知っている、ほら、K社長のことなんだが、最近、元気がなくて。ついこの間も一緒に飲んだのだが、何か、生気が無いというか、やつれてしまったような感じがするんだよ。いやね、変な病気じゃあないかと、それが心配なのサ。俺たちの世代になると、色々と怖い病気があるじゃないか、そんなのにかかっていたんじゃ、俺にしたって何にもできやしねェ。どうしたらいいんだろう」。

 K社長というのは部長の友だちでしてね、高校、大学とずっと一緒の同級生。向こうは実家の会社を継いだというわけですヨ。社会人になってからも、しばらくは修行としてよその会社に勤めもしたようですが、最初から実家を継ぐのが条件。確か、3代目じゃあないですかねェ。今どきの時代、家業をちゃんと継いで行くのは大変なのに、よく頑張ったと思いますヨ。真面目なのはもちろんですが、ビジネス感覚も結構イイのですナ。

 「だろう? それなのに、なんで最近になって急に老け込んだというのか、元気がなくなっちまったのか、それが分からないから困っているのサ。『病気じゃあないか?』って、そんなこと怖くて聞けねえじゃないか」。

 そんな話を横で聞いていたお局、「ねえ、K社長のこと? アタシもついこの間、業界の会合でお会いしたわよ。確かに、元気はなかったけど、顔色とか、変に悪い感じじゃなかったから、病気ではないと思う。そうねえ、思い当たるのは、更年期じゃないかしら。そうよ、オトコの更年期。特に社長とか役員とか、企業経営に携わった人の更年期。言うならば、会社の経営に重要な責任を負っていた人が、その責任から解放されたときに、フッと陥る症状なのよ。よく、男気(オトコギ)があるって言うじゃない、そんな、オトコの更年期、多分、間違いないと思うわ。部長、変な心配をしないで、相談に乗るつもりで、またお会いしてみたら?」。

 いやあ、お局の眼力、相当なもんですヨ。K社長の元気がないのは、男気あふれるオトコの更年期障害なんだとか。それはそうかもしれません。お局は、色々な経営者を見ていますし、付き合い方も色々。そんな中で、オトコの更年期というのを発見したのかもしれません。