言うまでもなく、更年期とは性成熟期から老年期への移行期のことですが、女性の場合には発汗や冷え症・肩こり・頭痛・めまい・不眠・神経症など、色々な障害が現れるようですヨ。その更年期障害が、男性にも、しかも社長をやったシトに多いなんて。

 お局の解説です。

 「社長というのは、実に孤独なもの。色々なことで悩みがあるのは社員と同じ。でも、社長は、その悩みをほかの誰かに簡単に打ち明けることもできないし、ましてや、社員に教えを乞うことなんてできない立場でしょ。だから、社長というのはほとんどが独断・即決でやるしかないのよ。それも、できる社長ほど、男気も強くなる。この傾向は強いのよね。それで、現役でバリバリやっている間は気も張っていて、それで何とかなっているのだけれど、後継者が決まったりして、自分の役割が終わったと感じた時から、その気持ちの張りが急速に落ちていくの。言ってみれば、張り詰めた糸がプツンと切れた感じかもしれないわね。良い悪いは別にして、気持ちの張りを失うのよ。だから、モチベーションが急落して、まさに更年期障害のように、傍から見ても分かるように具合が悪くなっていくのよ。多分、K社長は、間違いなく“オトコの更年期”だと思うわよ」。

 「そうか、お局の言う通りかもしれねえな。K社長、最近、息子が事業を受け継ぐって言っていたし、そのことが決まって、そうなっているのかもしれねえ。お局、ありがとう。早速、一杯、誘ってみるかァ」。

 てなことで、数日後…。いつもの赤提灯(ちょうちん)ですヨ。

 部長の報告です。

 「K社長、お局の言う通り、まさに更年期障害、そのものだったよ。まず、息子さんが社長になることが決まったようなんだ。めでたいことサ。一時、親父の言うことに反発して、家出するようにして会社とは全然関係のない業界の企業に就職していたのに、自分から継ぐと言い出して、戻って来たのだって。業績も安定していて、次を誰にするか、気にしていたのを見計らったかのように言われて、そう簡単に渡していいものか、そうも考えたらしいのだが、『よその飯を食って、この会社の良いところも悪いところも見えたような気がする。だから、任せてくれって、そう息子が言ったんだ』と、うれしそうに言っていたよ。でもよ、そう言いながら、フッと寂しそうな目をして、お局の言うように、気持ちの張りが無くなったのか、『今まで一人で頑張ってきたのに、現実としてこれから引退なんて、そう考えると何かむなしいよ』って言うのサ」。

 そういうものですかねえ。ある意味、社長業なんてェものは、わびしいものかもしれませんヨ。社長ですから、業績が良くて当たりまえ。なのに、誰も褒めてはくれません。悪くなったところで、責任を一身に背負って、誰に相談することもままなりませんヤネ。ましてや、誰かの責任にしたいところでも、それで済むわけもありませんワナ。結局、荷物を一人で背負って一人でおろす。その繰り返しが、経営者の宿命みたいなことですナ。

 「でもね、部長が聴いてあげて、K社長はうれしいと思ったに違いないわよ。ずうっと孤独できたのに、今度は息子さんが社長になるという、経営者としての後輩ができたわけじゃない。だから、その本音を部長に話せて、本当にうれしかったはず。そうでしょ?」。

 「お局、そうなんだ。K社長、むなしいと言った後、『一時は、社長業が終わってしまうと、気がめいってしまったが、今度は、別の立場で経営を見ようと思うんだ。一応、会長という立場になって、社内より、社外から会社を見よう、そう考えているんだよ。今まで、引っ張っていたのを、少し後ろから押してみよう、そう考えているのよ。業界を、第三者の視点で見ることも重要だし、何なら、別の業界のことも知ってみたい、そう考えるようになったのさ。今まで考えたこともないことを知りたくなって、実は今、社長になった時と同じようにワクワクしているよ。卒業したのに、ピッカピッカの新入生ってわけよ』ってうれしそうに話していたよ」。