「我々中小企業は今、『医療』に関連したテーマでなければ、銀行からの融資を受けにくいんですよ」。

 先日、東京都大田区にある、電子部品の自動組立機械や検査装置などを手掛けるものづくり企業を訪ねた際、オーナー社長はこのように漏らしました。

 実際、この企業は今年、新規事業となる医療機器分野に参入。ある製品で薬事認証を取得しました。最近では同社のように、医療機器分野への新規参入を果たした(あるいは、目指している)企業の話をよく耳にします。

 政府は、2012年7月末に閣議決定した「日本再生戦略」において、高い成長と雇用創出が期待される領域としてライフ(医療・健康)分野を位置付け、2020年に50兆円の需要と284万人の雇用を生み出す目標を示しました。この目標に向けた施策の一つとして掲げているのが、大企業はもちろん、ものづくり系の中小企業などの新規参入による、医療機器産業の活性化です。

 しかし、言うまでもなく、新規参入企業にとっての参入障壁の一つとなっているのが、「薬事法」です。他の機器分野には存在しない、この特有の規制をクリアすることは避けて通れません。

 こうした中、この参入障壁が少し低くなるかもしれない動きが、にわかに盛り上がっています。それは、薬事法の改正です。具体的には、「医療機器法」制定に向けた機運が高まりつつあるのです。

 医療機器の開発においては、常に改良・改善を重ねていくという特徴があります。しかし現行の薬事法は、このような医療機器の開発の実態に沿っていないものでした。組成が決まれば、その後の改良・改善がほとんどない医薬品を主に想定して作られた法律であるためです。少しでも改良・改善すると、一から審査・承認をやり直し、といったような現状があったのです。

 企業の新規参入に向けた動きも活発になる中、特にここ1年、医療機器の特性を踏まえた法体系で規制・運用すべきだという声が急速に強まりました。これを受けて政府も、次期(2013年)通常国会までの法案提出を目指し、医薬品と医療機器を別々の章立てにする検討を進めることを、前述の日本再生戦略の重点施策に盛り込みました。同時に、医療機器に用いるソフトウエアの扱いも、ようやく明確化する方針といいます。

 医療法人社団KNI 理事長の北原茂実氏の著書である『「病院」がトヨタを超える日 医療は日本を救う輸出産業になる!』(講談社、2011年)には、医療を「産業」としてとらえることの重要性が記されています。とても興味深い提言が数多く示されていて、刺激的な一冊なのですが、北原氏は同著の中で、(極論として)国民皆保険制度と診療報酬制度の完全撤廃が医療の産業化に不可欠だと訴えています。

 もちろん、国民皆保険制度や診療報酬制度の完全撤廃の是非については、簡単に結論が出るものではないかもしれません。ただし、薬事法を含め、医療を取り巻くさまざまな現行の法制度を時代に応じて改善していくこと必要なことであり、医療産業が今後どう発展していくのかに大きく影響するのは間違いないでしょう。その点で、前述の「医療機器法」制定の動きは、試金石と言えます。次期通常国会への法案提出に向けてスムーズに議論が進むのか、その動向を引き続きウオッチしていきたいと思います。