中国常熟市での出来事である。ある企業の工場を初めて見た時、工場全体の約70%の作業者が自分の持ち場で椅子に腰かけて休んでいたのである。休憩時間でもないし、仕事は仕掛ったままでもあり、日本ではありえないことに驚き、なぜだろうと強く感じた。「たまたまなのだろうか」と思っていたが、その後何度も現場に行く機会があり、その度に同じような状態が見受けられた。もちろん、毎回70%もの作業者が休んでいた訳ではないのだが……。

 理由はすぐに分かった。所謂作業計画が綿密に立てられていなかったのである。

 週間計画らしきものはあったのだが、工数と仕事量がアンバランス(負荷すべき仕事が少なすぎた)だったのである。管理職の方も現場を時々巡回されていたようだが、別に気にする訳でもなくそれが普通になっていたのである。

 そのような状況の中、ある工程で異変が起きていた。専門技能に優れた作業者を新たに採用したので、その工程だけ試験的に「出来高制度」を導入したということだった。

 その中途採用である新人が、ごく普通に仕事をこなしていたところ、今までよりも2倍の仕事をやってしまったとのこと。ということは、今までと同じ仕事をこなすのに、人員は約半分で間に合ったということになってしまう。非常にもったいない話である。

 この企業のコンサルティングテーマは、生産量を1.5倍にしたいということだったが、さまざまな調査をする内に、「要は計画をしっかりと立て、工数と仕事量をバランスさせ、現場を良く見てアクションを行う」ことで、簡単に1.5倍はクリアできることが分かった。しかし、ごく当たり前のことを提案しても、芸がないので我々も専門家として、ムダ取りを検討しつつしかるべき改善案も作成して、代替案を作成した。I案は、1.7倍、II案は、2.1倍……という風に。これらから分かることは、改善も重要だが、標準を決め、それを現場で実現し維持することも生産性を考える上で非常に重要なことだということである。

 中国の場合、この企業に限らず現場のマネジメントは一般的に弱点となっている。約2~3年で、現場全員が入れ替わる状況の中、どのようにマネジメントすれば良いのか真剣に考えるのも気が滅入ってしまうことかも知れない。しかし、こういった状況の中でもオーソドックスではあるが、日本流のマネジメントをいかにアレンジできるか……。それが解決のヒントとなると再認識させられた。