グローバル市場のブランド管理には一貫した物差しが必須

 一般消費者を対象とした定量調査という手法には以上のような留意点はありますが、ブランド戦略構築に必要なインサイトを得るためには人々の頭の中に存在する様々なブランドに対するイメージ・経験・価値判断を情報収集し、その結果を統計解析することがどうしても必要です。ブランドの評価・分析のために特別に設計されたブランド調査を時系列で実施する必要があるのです。

 特にグローバル市場で多くのカテゴリーに商品を送り込んでいるような多国籍企業では、国や市場やカテゴリーを超えて自社ブランド・競合ブランドを比較分析するための普遍的な測定装置が絶対に必要です。マーケティング調査では、例えば市場や消費者の好みに合わせて商品をローカライズしたり広告表現を現地化したりする必要から、調査自体も市場と商品に合わせてカスタマイズせざるを得ないのですが、ブランドを測る指標は全世界・全カテゴリー共通であるべきです。ですから、商品評価調査などのマーケティング調査の中にブランドイメージ評価項目を潜り込ませて「ブランド調査をやりました」というのは避けなければなりません。

 このようなブランド調査を回していく上で重要なのが予算の出所です。組織論とも絡みますが、本来ブランド管理と戦略立案のためのグローバルブランド調査は本社のブランド管理部門の予算と権限で行なうべきものです。しかし実際は各国各ローカル市場の販売・マーケティング部門の費用負担で実施するケースが多いようです。もちろん調査の全体設計や質問票作成、スケジュール管理に関しては本社のブランド管理部門がイニシアティブを取るのですが、調査費用が現地持ちということになると、ローカルマネージャーの心情としてはどうせ調査をやるならできるだけ現場のニーズに合わせてカスタマイズして、できれば製品・流通・価格・広告などマーケティング施策の評価データも同時に得たいという欲が出てきます。

 その結果、各国各カテゴリーで調査内容が不統一となり結果の比較分析ができなくなるのです。事実、私がかつて電通のブランド測定システムの売込みをかけたアメリカの巨大グローバル消費財企業では、米国本社の意向に反して各国各カテゴリーのブランド調査の仕様が完全には統一できていませんでした。最大の理由はやはり調査費用が現地負担となっていたことでした。

過去のデータに意味はない、将来へ向けた動態的分析が命

 さらに、調査目的は現状把握だけでなく、現状を踏まえたブランド力の改善のための「次の一手」の明確化に置くべきです。「C-BPI調査」でも行なわれているような「知名率◎◎%、忠誠度◎◎%」などの現状(正確には調査時点の過去の状況ですが)を把握しておくことは重要ですが、もっと重要なのはその「◎◎%」を「◎◎+α%」に上昇させるためにはどのような戦略を立ててどのように実践していけばよいのかの具体的かつアクショナブルな方針を得ることです。

 そのためには、データ分析のフレーム自体から考え直さなければなりません。例えば、図1をご覧ください。この図にある「Relevance(共感)」「Confidence(定評)」「Differentiation(識別)」「Growth(成長)」はこのコラムの第2回で紹介した4つのKPI(重要評価指標)です。電通でグローバル調査結果を分析したところ、この4指標がブランドの総合力を表すと同時に、そのブランドを掲げた商品に対する購買意向率と比較的高い相関を持つことが明らかになりました。しかし、これらのKPIが重要だとは言っても、結果をパーセンテージで静態的に把握しただけでは、当該ブランドが成長しているのか後退しているのか、定められた戦略どおりブランド作りが進んでいるのか否か、そのプロセスのダイナミズムが伝わってきません。

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図1