世界の常識は国家主導のブランド支援

 8月25日、北京の通称「鳥巣(ニャオチャオ)」スタジアムの隣にあるコンベンションホール「国家会議中心」で実施された「中国品牌領袖峰会」(英文呼称は「China Brand Leader Summit」)に招聘されてスピーチをしてきました。このシンポジウムは国家工業情報化部(略称「工信部」、英語標記「Ministry of Industry and Information Technology」、中国政府機関の「部」は日本の「省」に相当)の指導のもと、工信部下部組織の「中国企業品牌研究中心」や国家統計局などが共同で開催する公式イベントです。

 中国品牌研究中心では中国企業のブランド構築を支援するために独自に「C-BPI(China Brand Power Index)」というブランド力評価指標を定めて調査結果を発表しています。今回のシンポジウムではその指標に基く各業界のトップブランドが表彰を受け、続いて同センターの幹部や企業トップ、ブランド専門家たちによる講演が行なわれました。

 まず、皆様に報告したいのが中国政府による企業ブランド育成支援の実態です。前回のこのコラムでも「中国企業経営者たちはブランドによる事業変革(高収益モデル、海外展開など)を目指している」と書きましたが、このような企業を政府が自らサポートしているのです。その一翼を担うのが「中国品牌研究中心」であり、国家予算を投じて人材を集め、必要な基礎研究・調査・分析に投資して中国版の企業ブランド養成プログラムを構築しています。

 その研究成果の一端として、今回のシンポジウムではC-BPI調査に基づいて152業種に関する中国国内ナンバーワンのブランドが発表されました。その内訳は68%が中国ブランドであり、海外ブランドは32%に過ぎません。スイスNestle社、英蘭Unilever社、蘭Philips Electronics社、米Kraft Foods社などのグローバルブランドの精鋭たち(もちろん彼らも今回のC-BPIでカテゴリートップを取っています)を迎撃する中国ブランドの強さが実証された形となっています。

 ちなみに、日本ブランドは2カテゴリー(デジカメカテゴリーのキヤノンとカムコーダカテゴリーのソニー)でトップとなりました。韓国Samsung Electronics社は携帯電話機、液晶モニター、テレビの3部門でトップブランドとなっています。(そもそもSamsung社はこのシンポジウムの単独協賛企業であり、このこと自体彼らのブランド戦略の一環でしょう。)

 たまたま8月27日付の「China Daily」に、韓国の国家イメージ戦略担当者のインタビュー記事が掲載されていましたが、これも政府による国家イメージの向上プロジェクトの話で、企業と国家の違いこそあれ国民の税金を投下して国を挙げてのブランド戦略を推進している点は同じです。記事によれば、韓国は2009年に実業家、官僚、専門家から成る大統領直属の国家ブランド審議会を設置、G20などの国際イベントや世界各国の留学生をレポーターとするSNS経由のコミュニケーションなどを活用して戦略的ブランド発信を行なっているとのこと。

 一方、シンガポールに目を向けると、かの国では海外からの投資と一流研究者や高度な技術者の誘引に国家発展の礎を置いているので、国家ブランドイメージの向上は生命線となっています。

日本企業は本当にブランドの重要性を理解しているのか

 中国は国を挙げて国内企業のブランド育成を支援しているのですが、その前提には「目覚しい品質向上によりグローバル市場で戦う準備ができている中国企業が今必要としているのは、商品やサービスの付加価値部分を象徴できる強いブランドだ」という認識があります。

 翻って日本企業はどうでしょうか。私の最大の懸念は、日本の経営者や現場のプロダクト・マネージャーの中に、ブランドでモノやサービスを売ることを本当には理解していない人が多いのではないかということです。

 私の誤解や杞憂であればよいのですが、例えば中国で日本の白物家電やデジタル機器が一部を除いて完全に敗北を喫している理由が、「高機能過ぎて現地に合わない」とか「コスト高の構造が価格に反映されて地場の低価格商品にかなわない」など製品やマーケティング戦略の問題とされるケースが多いように思います。

 しかし、実際は日本製品のクオリティの高さは中国消費者にきちんと認識されています。また中国の人たちの購買力は今でも上昇中ですから、高機能・高価格は売れない言い訳にはなりません。

 なぜSamsung社の携帯電話機や韓国LG Electronics社のテレビ、中国・格力のエアコン、独Siemens社の洗濯乾燥機に遅れを取ってしまうのか。その大きな理由がブランドの魅力の欠如にあることを直視し、理解し、対策をしている日本企業が少なすぎるのではないでしょうか。だとしたら、どうやってブランドを再活性化すればよいのか。中国でビジネスを展開する日本企業は、今一度中国企業と同じスタートラインに立つべきだと思います。