2012年8月25日に米国で、韓国Samsung Electronics社が米Apple社の特許侵害を認める評決が出た(「Apple対Samsung、争点の特許はこれだ」参照)。一方、日本では8月31日に東京地裁がSamsungの特許侵害を認めない判決を示した。両社の裁判だけでも10カ国で50件以上あり、スマートフォン分野での知的財産権の訴訟はここへきて増加している。なぜ、ハイテク企業間の知財訴訟が増えているのか。ハイテクの知財問題に詳しい植木正雄氏(スターパテントLLP 代表パートナー)に分析してもらった。以前より知財が経営に大きな影響を及ぼすようになっていること、それを見越した世界のビッグ・プレーヤが特許を戦略的に活用している姿が見えてきた。(Tech-On!編集)


 8月25日、米地裁における陪審裁判で韓国Samsung社による米Apple社の特許侵害を認め、損害賠償額10億米ドル超(約800億円)を認定した評決が出された。このニュースは知的財産を扱う裁判記事でありながら、瞬く間に世界中を駆け巡り、日本でも一般新聞紙の見出しを飾るとともに、テレビ・ニュースで大きく報道された。振り返るに、近年、知的財産に関する記事が一般の目に触れる機会が増えてきたように思う。試しに、日本経済新聞電子版で2012年3月から8月までの半年間に掲載された「知的財産」または「特許」に関連する記事を検索してみると、891件もの結果が返ってきた。1カ月当たり約150件、1日5件の勘定になる。

 とりわけ最近、よく目に留まる知財関連記事がICT(情報通信技術)分野だ。例えば、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)やタブレット端末に関連する知的財産権侵害訴訟、移動体通信技術関連特許の大型売買取引、スマホ・メーカー買収など、いまや大衆に広く浸透したスマホやタブレット端末にまつわる話題が多い。それ故、知財といえば一般にはかなり難しい部類の話になるにもかかわらず、意外と身近な話題だけに、知財専門誌だけにとどまらず一般紙や経済誌の見出しをにぎわせる結果となっている。

 そして、これら知財関連ニュースに頻繁に触れることで、普段、直接、知財に関与してこなかった企業経営者の意識も大きく変わってきている。そればかりか、企業関係者のみならず、投資家や金融関係者なども知財動向に無関心ではいられなくなった。特にその転機となった事件が2011年6月末にニューヨークで起こった。