この秋の発売が取りざたされ、注目を集めている米Apple社の新型iPhone。このスマートフォンのディスプレイには、ある新技術が搭載されるのではないかと、業界関係者の間で話題になっています。それは、「インセル」と呼ばれる、ディスプレイの内部にタッチ入力機能を内蔵する技術です。ディスプレイとタッチ・パネルの全体の厚みを削減し、部品点数も減らせるため、スマートフォンの薄型・軽量化の決め手として、熱い視線が注がれています。

 インセル技術にとって、2012年は「元年」とも言える節目の年になりそうです。1月には、ソニーモバイルディスプレイがタッチ・センサ内蔵の液晶パネル「Pixel Eyes」の量産を開始しました。現在は、同社を含む日本の中小型液晶パネル・メーカー3社が事業統合した「ジャパンディスプレイ」が、強みの一つとして位置づける技術になっています(Tech-On!関連記事)。台湾AU Optronics社(AUO)も2012年下期にインセル型のタッチ・センサ内蔵液晶パネルの量産を開始する計画です。新型iPhoneにインセル技術が搭載されれば、その生産規模はケタ違いに増大することになります。

 この技術のインパクトの一つは、従来のサプライ・チェーン(部品の供給体制)をがらりと変えてしまうことです。これまでは、ディスプレイ・メーカーとは別に、タッチ・パネルを製造したり、製造したタッチ・パネルを液晶パネルに貼り付けたりするメーカーがありました。いわゆるタッチ・パネル・メーカーです。しかし、インセル技術が普及してタッチ・センサがディスプレイに内蔵されるようになれば、タッチ・パネルを製造したり液晶パネルに貼り付けたりする業務はなくなってしまいます。機器メーカーは、インセル技術を用いたタッチ・センサ内蔵の液晶パネルをディスプレイ・メーカーから調達すればよく、これまでのようにタッチ・パネル・メーカーに発注をかけたり、液晶パネルへの貼り付けを依頼したりする必要がなくなります。ディスプレイ・メーカーがタッチ・パネル・メーカーの仕事を奪い、付加価値を取り込む構図です。

 もう一つのインパクトは、ディスプレイの機能として、映像表示だけでなくタッチ入力の機能ももれなく付いてくることです。将来はフレキシブル・ディスプレイなどの技術進化により、パソコンやテレビだけでなく、身の回りの机や壁などさまざまな「面」にディスプレイが搭載されるでしょう。これは同時に、インセル技術によって、「机や壁などの面にタッチ・パネルが付く」ことを意味します。あらゆる「面」が、入出力可能な情報ツールとしての機能を持つようになるわけです。

 話題のインセル技術ですが、新型iPhoneには搭載されるのか、技術開発や量産準備はどこまで進んでいるのか、今後の発展の可能性はどうか、いずれも大いに気になるところです。ここからは宣伝で恐縮ですが、日経エレクトロニクスでは、インセル技術をはじめとする新世代タッチ・パネル技術について基礎から最前線まで学べるセミナー「タッチ・パネルの基礎から将来展望まで」を9月5日に開催します(セミナーの詳細)。

 インセル技術の台頭は、タッチ・パネルの最大の生産拠点である台湾や、進境著しい中国の業界にも大きな影響を与えます。8月29~31日の3日間、台湾ではタッチ・パネルの専門展示会「Touch Taiwan」が開かれます。中日の8月30日には同時開催の「FPD International Taiwan 2012」で、インセル技術の今後の展望や、タッチ・パネル産業の将来について議論されます(イベントの詳細)。インセル技術に対する関心の高さは、中国も同様です。9月18~19日に北京で開催される「FPD International China 2012 / Beijing Summit」では、中国のタッチ・パネル産業の今後やインセル技術がもたらす影響について、識者を交えて討論する予定です(イベントの詳細)。インセル技術をめぐる動きから、当分、目が離せません。